研究課題/領域番号 |
23659312
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研究機関 | 藤田保健衛生大学 |
研究代表者 |
三浦 惠二 藤田保健衛生大学, 総合医科学研究所, 講師 (20199946)
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キーワード | 自己免疫疾患 / 細胞表面抗原 / 自己抗体 / ELISA / 腎炎 / 臨床検査 |
研究概要 |
昨年度、抗血管内皮細胞抗体(AECA)を検出する新たな方法CSP-ELISA(solubilized cell surface protein-capture ELISA)を開発し、今年度は、それに関する論文発表(Miura K. et al., J.Immunol.Methods. 2012. 382(1-2):32-9.)、および特許出願(三浦惠二ほか2名、特願2012-212007、平成24年9月26日)を完了した。 CSP-ELISAは、AECA測定の標準法になりうるものと考えており、様々な自己免疫疾患患者血清を測定すると、高率に陽性を検出している。今年度は、全身性エリテマトーデス(SLE)におけるループス腎炎に焦点を当てて測定を行った。SLEでは、患者の約半数で何らかの腎障害が認められるが、腎臓の病態把握のためには腎生検が必要となり、患者にとっては大きな負担である。ループス腎炎患者のCSP-ELISA値、すなわちAECA-IgG抗体価が高い傾向があることが判明し、ループス腎炎の有無(強弱)と、AECA抗体価との相関性の検定を行った。 ループス腎炎の有無で、ぞれぞれ約40例ずつの測定を行った。昨年まではAECA-IgG(以下IgG)だけを測定していたが、AECA-IgA(以下IgA)も高値を示す検体があることがわかったため、IgAも測定することにした。その結果、SLE患者では、IgGはほとんど陽性を示すが、IgAについては約半数が陽性であった。さらに、IgG, IgAが共に高値である患者がループス腎炎の症状を示す率が高いことも判明した。またIgA値は、尿沈渣赤血球数と相関していた。腎病理組織においてISN/RPS分類の活動病変を認める患者は、活動性病変のない患者と比較すると、IgG値においては有意差を認めなかったが、IgA値は上昇していた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
CSP-ELISA法の測定の条件検討を重ねることで、測定の安定性を確立することができた。また、様々な疾患での測定件数も蓄積されてきており、健常人に比較して有意に陽性を示す率の高い疾患も明らかになってきた。今後は抗体価と病態との関連を見つけることと、抗原を同定することで、臨床検査の場に提案できる新たな検査法になると考えている。今年度は、SLEにおけるループス腎炎の有無に焦点を当てたところ、腎炎の病態との相関性を確認することができたたことで、臨床検査としての実用化の目処がたったと考えている。 新規自己抗原の同定については、昨年度から試行錯誤しているが、未だに結果は得られていない。患者血清を用いた免疫沈降法による自己抗原の精製、すなわち患者特異的な自己抗原の精製までは問題ないと判断している。しかし、それら抗原を同定するための質量分析の過程での問題が解消できていない。Sypro-Ruby染色で検出しているバンドの濃さに比べて、得られているペプチド断片が少なく、頻繁に混入してくるケラチン、また免疫沈降を行なっているため混入が想定されるIgGなどの断片が多いことである。即ち、染色されているバンド由来のペプチド情報が得られていない可能性が高いと考えている。精製されている自己抗原が膜タンパクである場合、トリプシン消化で得られるペプチド断片が、質量分析では不向きな大きすぎる断片と、極端に短い断片に偏っているため、ペプチド情報が得られていないと考えている。その問題を打開するためには、多量のサンプル調製をするか、また別のアプローチを試みる必要があると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
SLEにおけるループス腎炎とCSP-ELISA値の相関性が高いことがわかり、まずこの内容について論文発表するに十分なデータの取得を行う予定である。さらに、SLEに近い疾患である混合性結合組織病(MCTD)、強皮症(SSc)について、特徴的な病変の一つである肺高血圧症、皮膚病変にも焦点を当てることを考えている。前者の場合は、肺動脈血管内皮細胞を、後者については、皮膚微小血管内皮細胞あるいは皮膚繊維芽細胞を使用することで、それらの組織に特異的な自己抗体の検出を試みたい。 本研究で対象になっている抗内皮細胞抗体(AECA)は、古典的な自己免疫疾患として知られている疾患だけでなく、自己抗体との関連が示唆されている疾患でも検出されている。例えば、潰瘍性大腸炎、クローン病の炎症性腸疾患、そして川崎病があり、これらについても測定を試みたい。 抗原の同定については、これまでと同様に患者血清を用いた免疫沈降法を試みるが、これまでより多量の患者血清を用いて回収される精製物を質量分析で同定する予定ある。またさらに別の方法の検討も考えている。CSP-ELISAで検出される発色強度からすると、抗原は決して細胞の微量成分ではなく、主な成分の一つと想定される。血管内皮細胞で発現している遺伝子データベースは数多く存在しているので、それらを利用し、細胞表面に存在する分子で多量の遺伝子発現をしていて、かつ免疫沈降で検出される患者特異的なバンドの分子量に近い産物となる遺伝子を選択する。その遺伝子を細胞で発現し、その細胞に対する反応性をCyto-ELISAで測定する方法である。患者血清中のIgGあるいはIgAが結合するリコンビナント自己抗原が確認できれば、抗原同定となる。
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次年度の研究費の使用計画 |
1.CSP-ELISAの測定のためには、ウェル上に結合させる可溶化膜タンパクが重要な意味を持っている。通常は、臍帯静脈血管内皮細胞(HUVEC)を使用しているが、自己抗体が結合する臓器・組織は多岐に渡るため、その他の培養細胞を使用し、細胞表面タンパクをビオチン化して抽出、そしてELISAに用いることで患者ごと、疾患ごとの反応性の違いを検出できる可能性を考えている。例えば、ループス腎炎に焦点を当てる場合は腎微小血管内皮細胞、皮膚病変に焦点を当てる場合は皮膚微小血管内皮細胞や繊維芽細胞の使用が適切と考えている。それらの調製や測定のために、細胞培養器具、培地、血清、各種試薬、そしてELISA用のイムノプレートなどを購入する。 2.新規自己抗原の同定には、抗原の精製のためにProtein G Dynabeads、タンパク分離・検出用の各種試薬を購入、そして最終的には、質量分析の費用が必要となる。 3.血管内皮細胞で強く発現する細胞表面分子の遺伝子をPCRで増幅し、発現ベクターに組み込み、細胞での発現を試みるために、PCRに使用するプライマー、酵素、そして細胞に導入するための試薬を購入する。 4.現在論文投稿準備中であり、論文投稿に際し、英文校閲の費用を予定している。また、受理された場合は、出版費用を予定している。 5.研究の成果を学会などで発表するために、交通費・宿泊費などを予定している。
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