研究課題
昨年度までの成果として、抗血管内皮細胞抗体(AECA)を検出するための新しい方法としてCSP-ELISAが確立できた。CSP-ELISAにより患者血清中のIgG自己抗体を測定すると、全身性エリテマトーデス(SLE)、混合性結合組織病で約80%、強皮症で約50%の陽性率を示した。昨年度後半からは、SLEに焦点を当て、SLE患者の約半数で発症するループス腎炎との関連を探った。IgGとIgAについて測定を行ったところ、IgGが95%以上陽性、IgAは30%程度が陽性となった。腎生検が行われてあるループス腎炎患者においては、IgA高値を示す患者において、腎炎の活動性を示す管内増殖、ワイヤーループ、ヒアリン血栓、フィブリノイド壊死などの病理組織像が高頻度に観察された。CSP-ELISA高値の患者血清と可溶化膜タンパク画分を用いた免疫沈降法で自己抗原を精製したところ、SDSポリアクリルアミド電気泳動で約55kDaの患者血清特異的なバンドが観察された。このバンドを含むゲルを切り出し、トリプシン処理後、質量分析を行った結果、Xタンパク(特許出願予定のためXと記載)が同定できた。市販の抗Xタンパク抗体をELISAウェルにコートし、可溶化膜タンパク画分を反応、さらに患者血清を反応させるサンドウィッチELISAで陽性を示す検体が確認できた。これは、Xタンパクが、新奇自己抗原であることを意味したが、約40%の検体が陰性であること、CSP-ELISA高値である検体が、必ずしもサンドウィッチELISAで高値になるわけではないこと、CSP-ELISAとの相関係数は0.35で弱い相関性であることなどから、Xタンパクだけが、新奇自己抗原とは考えにくい結果となった。今後は、さらに別の成分の同定を進め、判明した成分によるELISA系を構築することで、ループス腎炎の新たな診断法として提供できると考えている。
3: やや遅れている
新奇自己抗原を同定することで、ループス腎炎の診断法として実用化できるとの目標で研究を行ってきたが、現在同定を試みている自己抗原の成分が単一ではないことが判明した。しかしながら、今回同定できたXタンパクが、新奇自己抗原であることは新たな発見であり、今後混在する成分を同定できれば、特許出願および実用化に繋がると考えている。本研究の基本技術であるCSP-ELISAは、細胞表面に存在する自己抗原(膜タンパクなどの複合体を想定)の複雑かつ不安定な立体構造を保持する工夫をしたことで、これまでの自己抗体検出法では対象になっていない自己抗体が検出できていると考えている。そのことを考慮すると、単一成分でなかったという結果は当然とも言える。混在している他の成分を明らかにし、それらを含めた新たなELISA系の構築は、全く新しい自己抗体測定法になり、ループス腎炎の診断に役立つことが期待できる。
1.免疫沈降で回収され、患者血清特異的な55kDaのバンドは、還元条件の結果である。非還元条件の場合、100kDa以上に複数本のバンドを示すことから、複合体を形成していると想定される。複合体を形成している他の成分についても同定を行う予定である。2.Xタンパクを、タグを付加させた形で培養細胞に発現し、タグを介して複合体を回収、その成分の同定を行う予定である。3.IgAが結合する自己抗原については、一部の患者においてIgGと同じ抗原に結合しているとの結果が得られているが、今後は、IgAについても標的自己抗原の同定を行う予定である。4.抗Xタンパク抗体を使用したサンドイッチELISAにより、混合性結合組織病でも抗Xタンパク自己抗体の陽性検体が見つかっている。さらに検体数を増やすとともに、他の疾患についても抗Xタンパク抗体の測定を行い、抗体価と病態との関連性を探る予定である。
患者血清を用いた免疫沈降法により患者特異的なバンドが検出でき、質量分析により成分の同定に成功した。しかし、同定された抗原に対する自己抗体が陰性の検体もあること、また還元条件での電気泳動で複数本のバンドに分離したことから、自己抗原が複合体を形成することが想定され、他の成分も同定する必要があることが判明した。そのため次年度に、追加の免疫沈降実験とその構成成分の同定を行いたいと考え、未使用額を充てることにしたい。患者血清を用いた免疫沈降実験で、患者特異的に回収される複合体の成分同定実験を行う。さらに、既に同定されているXタンパクの遺伝子を使用し、タグ付きで培養細胞で発現、タグを介して複合体を回収、その成分の同定を行う。質量分析は、高感度の質量分析装置を必要とするため、受託解析を予定している。研究費の多くをその費用に充てる予定である。
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