研究課題/領域番号 |
23659314
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研究機関 | (財)東京都医学総合研究所 |
研究代表者 |
芝崎 太 (財)東京都医学総合研究所, ゲノム医科学研究分野, 副参事研究員 (90300954)
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研究分担者 |
櫻井 陽 (財)東京都医学総合研究所, ゲノム医科学研究分野, 研究員 (40546628)
遠藤 典子 (岩田 典子) (財)東京都医学総合研究所, ゲノム医科学研究分野, 研究員 (80546630)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 診断 / インフルエンザ / 抗体 / 子宮頸がん / 蛍光 |
研究概要 |
鳥インフルエンザはその発症により数十万人以上の死者が発生すると予想され、対応が緊急性を有する疾患である。その診断は、咽頭ぬぐい液を用いた通常のイムノクロマトやELISA法、型別診断には通常のPCRが用いられている。鳥インフルエンザ(H5N1)の潜伏期は平均10日で、発症までに(日本に侵入する経路:空港など)簡便な検査でいち早く発見し、隔離やワクチン療法を試行する必要がある。現状の簡易検査では感度不足で発見が遅れるため、本法を応用し超高感度でしかも多項目(亜系も含め)検出できる簡便な迅速イムノクロマト法が必要とされている。子宮頸癌は予防ワクチン接種への関心が社会的に高まっているが、接種によって誘導される中和抗体(感染を防ぐ主体)の検出系が確立されていない。申請者等は、これまでに超高感度同時多項目測定法(MUSTag法:特許第4111984号、各国移行中)をさらに応用した蛍光シグナル増強法(ImpacTag法;特許申請中)を基盤技術として開発して来た。本法による新しいイムノクロマト診断法及びデバイス作製により、個人レベルで中和抗体を確認できることから、予防効率を大幅に上昇できる。本研究は、緊急性のある鳥インフルエンザと子宮頸癌にフォーカスし、超高感度検出可能な蛍光イムノクロマト法と検出機器の開発を目指している。本研究により測定機器のポータブル化や測定手技の簡便化が可能になるため、屋外での診断にも応用できる。これらの取り組みにより、本法を応用したOTC(Over The Counter)薬を早期に実用化し、各種疾患の早期発見と治療効率の向上、個別化医療へ貢献し、国民が健康で安心して暮らせる社会の実現が可能となる。また世界に先駆けた新しい診断の分野を開拓できうると確信している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)新型インフルエンザの抗体作製(研究協力者:細川幸生、連携研究員:野村奈美子):H5N1型、高病原性部位認識抗体はすでに作製を終了した段階である。作製した抗体はそれぞれサブタイプ同定、必要に応じてFab化、ImpacTag化した後、乖離常数等を検定し、有用な抗体の選定を行った。(2)評価に使用するウイルス感染細胞と不活化サンプルの作製(野村奈美子、研究分担者:櫻井陽):抗体の評価に使用する季節性インフルエンザおよびN5型ウイルス抗原に関しても作製する事ができた。(3)ImpacTagアッセイにおける超高感度試薬の開発 (細川幸生、研究協力者:森實芳仁、芝崎太):現状での感度は10,000 pfu/mL程度であるが、ウィルス株により一桁ほどのばらつきがある。バッファーや標識抗体量などの至適化を行ったが、目詰まりが発生し同程度の高感度しか達成することができなかった。 亜型同時検出に関しては、季節性インフルエンザ(A・B型)に加え、N5型の検出を同時に実施する条件について、キャプチャの順番や抗体量など検出条件を検討した結果、3種類同時検出はかなり困難が伴い、A型+B型とH5型の2種類の検出系で進めることで決定した。(4)ImpacTagイムノクロマトの研究開発(細川幸生、芝崎太 研究協力者:(株)アドテック、シンセラ・テクノロジーズ(株)):従来のイムノクロマト検出機器は金コロイドバンド測定用であり、蛍光測定が可能なイムノクロマト検出機が無かったため、小型のイムノクロマトケースを作製した。それらの1次評価を行い、イムノクロマトとしては、最終仕様が決定された。(5)簡易診断装置の研究開発(芝崎太、細川幸生、シンセラ・テクノロジーズ(株)):基本設計と分析プロトコルの検討、金型製作、プリント基板製作、部材成形、チップデバイスの組立、バイオ診断面での評価実験を各担当者が行い、初期プロトタイプが完成した。
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今後の研究の推進方策 |
H23年度の研究進捗状況に関しては、おおむね順調に進んでいるものの、大きな課題として、(1)ImpacTag化抗体がイムノクロマト膜上を流れにくいことが判明し、様々な検討を行ってきた。大きな原因として、付加している遺伝子の分子量が大きすぎたり、DNAに存在する電価が原因と考えられた。最適化により、従来法と同等の感度が得られたものの、目標である100倍以上の高感度化は達成できなかった。本方法がうまく使用できない場合を考慮し、蛍光ビーズ方の導入を平行して進めてきた。蛍光ビーズ法は、ラテックスナノビーズの中に蛍光色素を包埋したもので、形状が旧であるため膜内を流れやすく、感度としても従来の50倍以上の高感度化が得られている。今後は、2年間の計画中にキット、機器を完成させるためにも、当初のImapcTagの固執せずに開発を進める予定である。(2)機器開発に関しては、おおむね順調に進んでいる。現在初期プロトタイプが完成し、仕様、機能的にはほぼ満足できる内容であるが、当初の予定より全体のサイズが大きく、小型化に向けた取り組みをH24年度に行う予定にしている。(3)子宮頸がんワクチン効果判定キットに関しては、念願であったパピローマ表面抗原の蛋白発現がカイコを用いた系で完成した。これにより、大量生産の道が開け、今後進めるイムノクロマト化、大量サンプル処理ができるELISA法など、完成のめどがたった。(4)子宮頸がん、季節性インフルエンザではm実際の患者さんのサンプルが使用できるため、臨床試験は容易であるが、H5鳥インフルエンザに関しては患者さんがいないため、分離株が必要になる。現在、多くの分離株を持っている北大の喜田教授から分与を受けル予定で進めている。
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次年度の研究費の使用計画 |
(1)新型インフルエンザの抗体作製:作製された抗体の検定を進めるとともに、異なる型別抗体の作製を行う。(2)子宮頸癌予防ワクチンによる中和抗体検出用抗体の選定:中和抗体検出用の抗原としてパピローマウイルス16型、18型の抗原をバキュロウイルス蛋白発現系にて作製する。また、コントロール用として自作も含めて入手可能な抗体の中から、イムノクロマト法に使用可能な抗体を選別し、その中から最も高感度・高精度の組み合わせを決定する。(3)測定サンプル前処理条件の検討:鳥インフルエンザの検出には患者の咽頭ぬぐい液を用いる。また、子宮頸癌予防ワクチンによる中和抗体の検出には血液を用いる。そのためサンプルの前処理方法の検討が必要である。それぞれに応じた短時間で簡便な処理方法を検討する。(4)ImpacTagイムノクロマトの研究開発:各材料、反応液の検討:メンブレン上では粒子が流れながら凝集や反応を行なうこととなるので、試薬の組成・pH・温度・一回に処理する量などの検討を行う。また、抗体集積の確認:検出には抗体の集積が必須である。高感度の検出機器で蛍光色素付き抗体の集積を確認する。また、デバイスへのサンプル滴下から測定結果出力まで全分析時間を15分にまで短縮できるプロトタイプの完成と測定条件に合わせた諸条件検討、およびプロトタイプを用いた品質面での検討。(5)実際のサンプルの測定、臨床治験:上記プロトタイプを用いたスタンダードの検討、鳥インフルエンザサンプルを用いた実際の測定において、診断に対応できる仕様を最終決定し、順次、子宮頸癌予防ワクチンによる中和抗体診断に対応できる仕様を最終決定し、臨床治験を行う。
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