研究課題/領域番号 |
23659318
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
豊田 博紀 大阪大学, 歯学研究科(研究院), 准教授 (00432451)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 帯状回 / 慢性疼痛 / シナプス伝達 |
研究概要 |
前帯状回皮質は痛みの認知や情動的要素に関与し、慢性疼痛患者では前帯状回皮質に機能的変化が生じる可能性が示唆されている。それにもかかわらず、慢性疼痛が前帯状回皮質にどのような影響を与えるかについて着目した研究は少なく、シナプス伝達機能変化に関する知見は非常に少ない。申請者のこれまでの研究により、末梢炎症性疼痛モデルマウスや神経因性疼痛モデルマウスの前帯状回皮質では、興奮性シナプス伝達において、伝達効率の増加が生じることが明らかとなった。しかしながら、興奮性シナプス伝達の伝達効率の増加が、興奮性伝達物質の放出確率上昇によるものか、あるいは、放出可能シナプス小胞数の上昇によるものかは明確ではない。そこで本研究では、末梢炎症性疼痛モデルマウスおよび神経因性疼痛モデルマウスを使用し、前帯状回皮質における興奮性シナプス伝達の素量子解析を行った。正常マウスおよび慢性疼痛モデルマウス(生後6-8週齢)の脳スライス標本を作成し、前帯状回皮質第2/3層の錐体細胞にパッチクランプを行い、微小興奮性シナプス後電流(mEPSC) 及び刺激誘発性興奮性シナプス後電流(eEPSC)を記録した。素量子解析により、末梢炎症性疼痛モデルマウスでは、正常マウスと比較して、興奮性伝達物質の放出確率及び放出可能シナプス小胞数がともに増大していた。一方、神経因性疼痛モデルマウスでは、正常マウスと比較して、興奮性伝達物質の放出確率のみが増大しており、放出可能シナプス小胞数は変化していなかった。これらの結果から、疼痛モデルの種類に応じて、シナプス前終末に生じる影響が異なることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度は、はじめに、慢性疼痛モデルマウスの確立を試みた。末梢炎症性疼痛モデルマウスは、マウスの後肢に起炎症物質であるComplete Freund's Adjuvant(CFA)を注入することにより作製した。神経因性疼痛モデルマウスは、マウスの腓骨神経を結紮することにより作製した。末梢炎症性モデルマウスおよび神経因性疼痛モデルマウスともに、後肢への機械的刺激に対する痛覚閾値の低下が約2か月持続したため、慢性疼痛モデルマウスとして有用であることを確認した。次に、これらの慢性疼痛モデルマウスを用い、前帯状回皮質におけるシナプス機能変化を確認した。両マウスともに、正常マウスと比較すると、前帯状回皮質では興奮性シナプス伝達の伝達効率の増加が生じていたため、これらのシナプス機能変化が慢性疼痛の神経基盤である可能性が示唆された。さらに、素量子解析により、疼痛モデルの種類に応じて、シナプス前終末に生じる影響が異なることを明らかにした。平成23年度は、慢性炎症性モデルマウスおよび神経因性疼痛モデルマウスの前帯状回皮質において、シナプス機能変化を明らかにすることができたため、おおむね計画通り進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、慢性疼痛時における興奮伝播様式の変化を観察し、慢性疼痛の神経機構を神経回路レベルで明らかにすることを目的とする。正常マウスおよび慢性疼痛モデルマウス(生後6-8週齢)の前帯状回皮質を含むスライス標本を作製し、膜電位感受性色素(RH-414)を負荷する。そして、前帯状回皮質第3層下部に刺激用の金属電極を刺入し、通電によって生じる興奮伝播の時空間パターンを観察する。慢性疼痛モデルマウスの帯状回皮質における興奮伝播様式が、正常マウスと比較してどのように変化するかを明らかにする。次に、興奮伝播におけるイオン機序として漏洩カリウムチャネルに着目し、興奮伝播に果たす役割を検討する。漏洩カリウムチャネルは、静止膜電位や入力抵抗を制御することにより、神経細胞の活動制御に重要な役割を果たしており、漏洩カリウムチャネルの中で、TWIK-related acid-sensitive K+ channel 1 (TASK1) 及びTASK3 チャネルは、大脳皮質において豊富に発現している。本研究では、まず、正常マウスのスライス標本を用いて実験を行い、バリウム(TASK1チャネル拮抗薬)または亜鉛(TASK3チャネル拮抗薬)投与前後で興奮伝播様式を記録する。得られる結果から、正常マウスの興奮伝播におけるTASK1又はTASK3チャネルの役割を検討する。次に、同様の実験を慢性疼痛モデルマウスのスライス標本を用いて行い、バリウムまたは亜鉛が興奮伝播様式に果たす役割を検討する。これらの結果から、慢性疼痛時の興奮伝播における漏洩カリウムチャネル(TASK1又はTASK3チャネル)の役割を明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究を遂行していく上で必要に応じて研究費を執行したため、当初の見込み額と執行額は異なった。しかし、平成24年度の研究計画に変更はなく、前年度の研究費も含め、予定通りに計画を進めていく。平成24年度は、主として膜電位感受性色素を用いた膜電位測光法を行う予定である。本課題の実験を平均週3回実施する予定であり、一般試薬として、細胞外灌流液の調製に必要な試薬およびイオンチャネル・受容体等の各種阻害薬を購入する。蛍光試薬として、膜電位感受性色素RH414を購入する。実験動物として、妊娠ラットおよび成獣ラットを購入する。研究成果発表のため、平成24年度は、国内2回・海外1回の学会参加を予定している。また、研究成果を英文雑誌へ投稿する予定である。
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