研究課題/領域番号 |
23659318
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
豊田 博紀 大阪大学, 歯学研究科(研究院), 准教授 (00432451)
|
キーワード | 慢性疼痛 / 帯状回皮質 / シナプス |
研究概要 |
末梢性炎症疼痛モデルマウスの前帯状回皮質では、興奮性シナプス伝達の伝達効率増加が生じることが知られている。昨年度、素量子解析を用いて詳細に検討したところ、末梢性炎症疼痛モデルマウスの前帯状回皮質では、正常マウスと比較して、興奮性伝達物質の放出確率及び放出可能シナプス小胞数がともに増大していることが明らかとなった。しかしながら、前帯状回皮質における局所神経回路の動作機構が、慢性疼痛刺激によりどのように変化するかは不明である。そこで光学的膜電位測定法を用い、局所神経回路の動作機構が、慢性炎症性疼痛刺激によりどのように変化するかを検討した。野生マウスおよび慢性疼痛モデルマウスの前帯状回皮質を含むスライス標本を作製し、膜電位感受性色素(RH-414)を負荷した。そして、前帯状回皮質第3層下部に刺激用のタングステン電極を刺入し、通電によって生じる興奮伝播の時空間パターンを野生マウスおよび慢性疼痛モデルマウス間で観察した。野生型マウスおよび慢性疼痛モデルマウスの前帯状回皮質スライス標本では、第3層下部刺激によって生じる興奮が第2/3層に垂直伝播し、そこから第2/3層内で水平的な伝播が認められた。慢性疼痛モデルマウスの前帯状回皮質では、野生型マウスに比べて、皮質第2/3層での水平方向の興奮伝播範囲が大きく、その時間経過も延長していた。これらの結果から、慢性炎症性疼痛刺激により、前帯状回皮質における興奮伝播の増強が生じる可能性が示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
膜電位感受性色素を用いた光学的測定法の結果、慢性炎症性疼痛モデルマウスでは、コントロール群マウスと比較して、前帯状回皮質第3層下部刺激によって生じる興奮伝播範囲が拡大していることを観察した。このように、慢性炎症性モデルマウスの前帯状回皮質において、局所神経回路の動作機構変化を明らかにすることができたため、概ね期待した結果が得られたといえる。しかしながら、この興奮伝播範囲の拡大に、TASK1/3チャネルが関与しているか否かを薬理学的に明らかにしようと試みたが、十分な結果が得られていない。このことから、当初の研究計画よりもやや遅れている。
|
今後の研究の推進方策 |
今年度は、慢性疼痛時における興奮伝播増強機構をさらに検討する。興奮伝播におけるイオン機序として漏洩Kチャネルに着目し、興奮伝播に果たす役割を検討する。まず、正常マウスのスライス標本を用いて実験を行い、バリウム(TASK1チャネル拮抗薬)または亜鉛(TASK3チャネル拮抗薬)投与前後で興奮伝播様式を記録する。得られる結果から、正常マウスの興奮伝播におけるTASK1又はTASK3チャネルの役割を検討する。次に、同様の実験を慢性疼痛モデルマウスのスライス標本を用いて行い、バリウムまたは亜鉛が興奮伝播様式に果たす役割を検討する。また、子宮内電気穿孔法を用いたTASK1/3遺伝子ノックダウンマウスを用い、興奮伝播および慢性疼痛におけるTASK1/3チャネルの役割を検討する。これらの結果から、慢性疼痛時の興奮伝播における漏洩Kチャネル(TASK1又はTASK3チャネル)の役割を明らかにする。
|
次年度の研究費の使用計画 |
膜電位感受性色素を用いた光学的測定法の結果、慢性炎症性疼痛モデルマウスでは、コントロール群マウスと比較して、前帯状回皮質第3層下部刺激によって生じる興奮伝播範囲が拡大していることを観察した。この興奮伝播範囲の拡大にTASK1/3チャネルが関与しているか否かを明らかにするため、薬理学的に検討する。また、電気穿孔法を用いたTASK1/3遺伝子ノックダウンマウスを用い、興奮伝播および慢性疼痛におけるTASK1/3チャネルの役割を明らかにする。未使用額は、これらの実験のための研究経費(一般試薬、遺伝子導入用試薬、実験動物、その他消耗品)にあてる予定である。また、研究成果発表のため、平成25年度は、国内1回・海外1回の学会参加を予定している。さらに、英文雑誌投稿料として使用予定である。
|