研究概要 |
TRPV1, TRPA1の物理的結合の可能性を免疫共沈降法、pull down法によって検討したが、結合を示すデータは得られなかった。野生型マウス、TRPV1欠損マウス、TRPA1欠損マウスを用いて行動薬理学的解析を行った。カプサイシンの足底投与によるlicking, biting等の痛み関連行動、アリルイソチアシアネートの足底投与による痛み関連行動を比較検討し、片方の受容体欠損によって別受容体を介した行動に変化がでていないかを解析した。TRPA1欠損マウスのみならず本来TRPA1の刺激物質アリルイソチアシアネート(AITC)が作用しないTRPV1の欠損マウスにおいても、AITCの投与による痛み関連行動が著しく減弱した。同様に、TRPV1欠損マウスのみならずTRPA1欠損マウスにおいても、TRPV1刺激物質カプサイシンの投与による痛み関連行動が減弱したことから個体レベルにおいて両受容体の機能連関が推定された。また、後根神経節細胞を用いた解析では、TRPA1欠損神経で野生型神経と比較してカプサイシン感受性が有意に低下していたことから、細胞レベルでもTRPV1, TRPA1の機能連関が示唆された。TRPA1の新規有効刺激物質を探索して、辛くないトウガラシの成分カプシエイトがTRPV1のみならずTRPA1も活性化することが明らかとなった。また、一級アルコールが炭素鎖依存的にTRPA1を活性化することが明らかとなり、オクタノールによる痛み感覚はTRPA1活性化によると推定された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1) TRPV1, TRPA1の機能連関に関して、物理的結合は生化学的な実験で確認できなかったが、行動薬理学的解析、後根神経節細胞を用いた電気生理学的解析でTRPV1, TRPA1の機能連関を示すデータが得られ、TRPV1, TRPA1の機能連関の仮説が証明される可能性が非常に高いと考えられる。平成24年度はこの機能連関の解析を完成させて、TRPV1, TRPA1を中心とした侵害刺激メカニズムの全容を明らかにできると期待される。(2) TRPA1の有効刺激の探索を行い、TRPV1を活性化することが分かっている辛くないトウガラシの成分カプシエイトやオクタノールがTRPA1を活性化して、痛みや交感神経系の活性化をもたらしていることが明らかになり、鎮痛薬開発につながることが期待される。
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今後の研究の推進方策 |
(1) TRPV1, TRPA1刺激薬を用いた行動薬理学的解析をTRPV1, TRPA1ダブル欠損マウスにまで広げて、個体レベルにおけるTRPV1, TRPA1機能連関の解析を確固足ものとする。(2) 平成23年度に行った後根神経節細胞を用いた解析をさらに進めて、TRPA1欠損神経と野生型神経でのカプサイシン感受性の比較検討を用量依存性の変化も含めて体系的に進めるとともに、TRPV1欠損神経と野生型神経でのAITC感受性の比較検討も行う。(3) HEK293細胞に強制発現させたTRPV1, TRPA1の機能連関解析を行い、機能連関の詳細な分子メカニズムを明らかにする。さらに、TRPV1, TRPA1の細胞膜ラフト上での近接した発現を、共焦点レーザー顕微鏡を用いて解析する。細胞内Ca2+、PIP2を含む膜脂質の機能連関への関与を検討する。TRPV1, TRPA1機能連関に関わる細胞内ドメインを明らかにする目的で、種々のTRPV1, TRPA1細胞内小ドメイン欠失変異体を作製して機能連関の有無を検討する。(4) これまでの結果は、TRPV1発現神経のサブグループの存在を意味しており、それが疼痛発生にいかに関与しているかを明らかにする目的で、急性痛(カプサイシンあるいはAITC投与)に加えて、急性炎症性疼痛(フォルマリン投与第2相)、慢性炎症性疼痛(CFA投与)、神経因性疼痛(Chungのモデル等)での痛関連行動・反応の詳細な解析を野生型マウス、TRPV1欠損マウス、TRPA1欠損マウス、TRPV1/TRPA1ダブル欠損マウスで行う。(5) TRPA1有効刺激の更なる探索とその活性化メカニズムの解析をおこなう。
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