研究課題
繊維・粒子状物質は吸入曝露により呼吸器で慢性炎症を惹起し、発がんや線維化などの健康障害を起こしうる。しかしその分子機構には不明な点が多く、また、これらの物質の曝露指標やリスク評価指標の確立が急務である。マイクロRNA(miRNA)とは22塩基前後の非コードRNAであり、メッセンジャーRNAに結合して標的遺伝子の発現を抑制することから、がんなどの様々な疾病の新しいバイオマーカーとして近年注目を集めている。本年度の主な研究成果は以下の通りである。1)石綿(アスベスト)をマウスに気管内投与して肺組織よりRNAを抽出し、マイクロアレイでmiRNAの発現を網羅的に解析した。その結果、統計学的有意差を有しかつ対照群に比して2倍以上発現量が変動するmiRNAが、クリソタイルでは24種類、クロシドライトでは5種類認められた。2)黄砂を気管内投与したマウスの肺組織のmiRNA発現を1)と同様の方法で解析した。その結果、対照群に比して有意に発現量が変動するmiRNAが19種類認められた。二酸化珪素(シリカ)を同様に投与した場合は、21種類のmiRNAの発現量が変動した。3)ナノ素材の多層カーボンナノチューブ(MWCNT)は、ヒトマクロファージ培養細胞で7種類のmiRNAの発現量を変動させ、細胞死の一種であるアポトーシスの誘導に関わる可能性を示した。以上の結果から、miRNAが繊維・粒子状物質のリスク評価指標となりうる可能性が示された。さらに繊維・粒子状物質による健康障害に関する研究成果として、MWCNTがエンドサイトーシスによりヒト肺上皮由来培養細胞に取り込まれ、炎症条件下で生じるDNA損傷塩基8-ニトログアニンが生成されることを報告している(Toxicol Appl Pharmacol2012)。
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http://www.medic.mie-u.ac.jp/eiseigaku/