研究概要 |
感染性食中毒は、食品中で増殖した病原細菌を経口的に摂取し、発症する場合が多い。多くの細菌種で発症に必要な菌数は10e7~10e8 cfu とされており、原因食品はかなりの菌で汚染されている。従って、原因食材から菌を分離同定するのは比較的容易である。しかし、菌が食品に付着するまでの経路を調べる場合には、どのような菌であっても菌数が非常に少なく、検出が難しい。また、腸管出血性大腸菌のように少ない菌数で発症する場合や、〝生きているが培養できない状態”(VBNC)の菌が関与する場合は検出が困難である。 そこで、本研究では大腸菌をモデルに①VBNCといった状態が本当に存在するのか、②VBNCを検出できる方法はあるのかを検討した。まず、10e6 cfu の標準株(ATCC25922株)と臨床分離株2株を滅菌水に浮遊し(飢餓の状態)、4℃あるいは20℃に静置、継時的に固形培地(M9 agar, LB agar, SB agar)あるいは液体培地(M9, LB, SB)で菌数を測定した。その結果、培地の種類や菌株に関わらず、4℃保存では100~150日で、20℃では210~230日でコロニーを検出できなくなった。しかし、液体培地では感度が100倍ほど高く、固形培地で培養培養不能後も30日ほど長く菌が検出できた。このことから、一般に固形培地でコロニーが出なくなる時点でVBNCと定義しているが、それは真のVBNCではないことが分かった。液体培地でも生菌を検出できなくなった菌液をさらに1か月以上保存後、マウスに経口摂取したところ、12匹中2匹の便から、その大腸菌株のコロニーを検出できた。以上の結果から、①菌の分離には液体培地が好ましいこと、②実際にVBNCと言える大腸菌が存在することを証明できた。
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