研究課題/領域番号 |
23659336
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研究機関 | 京都府立医科大学 |
研究代表者 |
酒井 敏行 京都府立医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (20186993)
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研究分担者 |
友杉 真野 (堀中 真野) 京都府立医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (80512037)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 癌 / TRAIL / 併用 / 酪酸 |
研究概要 |
本研究の目的は、食物繊維の代謝産物である酪酸のヒストン脱アセチル化酵素 (HDAC) 阻害活性に着目し、その分子メカニズムに基づいた効率的な癌予防法を提案することである。申請者らは、これまでに酪酸に6種類の癌抑制遺伝子誘導作用を見出したことから、癌予防に向けて食物繊維に高い期待を持っている。しかしながら、疫学研究では食物繊維の癌予防効果は限定的であったため、その原因を追及したところ、抗腫瘍免疫の実行サイトカインとして注目されているTRAILの発現を、酪酸が著明に抑制するという可能性を見出した。申請者らは、このTRAILが癌予防に深く寄与しているという背景に着目し、乳酸菌などのTRAIL発現誘導物質を探索し、報告している。そこで、酪酸とTRAIL発現誘導物質を組み合わせることで、TRAILの発現を回復させることができると考えた。本研究の成果により、食物繊維の代謝産物である酪酸による癌予防効果が乳酸菌の摂取により増強されるか否かを明らかにすることにより、癌の「分子標的併用予防」を目指す。 平成23年度は、まずヒト末梢血単核球(PBMC)とヒト癌細胞の共培養モデルにおける、酪酸と乳酸菌の併用試験を行った。フローサイトメーターを用いてアポトーシス誘導効果を評価系とし、癌細胞の種類、酪酸・乳酸菌の添加濃度や時間といった諸条件について検討した。その結果、ヒト大腸癌細胞株HT-29に対し、酪酸が乳酸菌の免疫賦活作用を高めることを見出した。現在、その条件下の培地中のTRAILの濃度をELISAで測定している。さらに、TRAIL経路の寄与を確認するため、TRAIL受容体のsiRNAやTRAIL中和抗体を用い、癌細胞の細胞死を阻害できるか否か検証中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成23年度研究実施計画の内、[細胞レベルにおける酪酸と乳酸菌の併用効果(細胞死誘導効果)の検討]に時間がかかり、当初予定していた[動物レベルにおける酪酸と乳酸菌の併用効果(発癌予防効果)の検討]に取り組む段階に入っていないため。 [酪酸によるTRAIL発現抑制メカニズムの解明]については、各種阻害剤による検討や、Western blotting、リアルタイムRT-PCRによるアポトーシス促進因子・抑制因子の発現量への影響などの検討中である。
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今後の研究の推進方策 |
[酪酸によるTRAIL発現抑制メカニズムの解明] 本研究課題遂行に向けた検証によって、TRAILの発現量が酪酸によって抑制されることを見出した。今後、さらに詳細なTRAIL発現抑制メカニズムの解明を進める。具体的には、以下の4点について検証する。(1)TRAIL発現制御に関わる転写因子の解明:酪酸によって、mRNAレベルでTRAIL発現の抑制が認められたことから、転写調節により発現抑制を受けているかをプロモーターアッセイにより調べる。まず、ヒト細胞株HT-29にTRAILプロモータープラスミドを導入し、酪酸の添加によってTRAILプロモーター活性がどういった影響を受けるか検証する。さらに、TRAILプロモーター上の酪酸制御部位を明らかにし、酪酸によるTRAIL発現制御に関わる転写因子を解明する。(2)TRAIL産生に関与するサイトカインへの影響:TRAILの産生に関与するサイトカインとして、IFN-αやIFN-γなどが報告されている。そこで、酪酸の添加によって、これらのサイトカインの量に影響が現れるかどうか、PBMCの培養上清のELISAによって検証する。(3)制御性T細胞への影響:HDAC阻害作用によって制御性T細胞数が増し、機能性T細胞の働きが抑制されることが明らかとなった。今回の酪酸による現象も、制御性T細胞に対する酪酸の影響の結果という可能性を考えた。酪酸添加後のPBMCにおける制御性T細胞数の変化をフローサイトメーターによって解析する。 (4)HDAC阻害活性を有する食品成分での検討:酪酸の他に、HDAC阻害活性を有する食品成分はいくつか報告されている。それらを用いて、酪酸と同様にHDAC阻害活性を介しての癌細胞に対する TRAIL受容体の発現増強作用を有するか検討する。加えて、免疫細胞に対するTRAILの発現抑制作用を有するかも検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
[酪酸によるTRAIL発現抑制メカニズムの解明] 細胞レベルでの試験であるので、主に培養用プラスチック製品や培養用培地、さらに分子生物学的検討に必要な実験試薬・装置などに研究費を使用する予定である。 [動物レベルにおける酪酸と乳酸菌の併用効果(発癌予防効果)の検討] 化学発癌モデルマウスを用いた試験であるので、マウス購入費や飼育費用、マウスへの投与用の試薬、また、腫瘍サンプル・血液サンプルの解析用試薬・装置などに研究費を使用する予定である。
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