研究課題
癌予防に向けて食物繊維は高い期待を持たれているものの、疫学研究では食物繊維の癌予防効果は限定的である。その原因として、抗腫瘍免疫を担うTRAILの発現を、食物繊維の代謝産物である酪酸が著明に抑制するという可能性を見出した。申請者らは、TRAIL発現誘導物質として乳酸菌を報告している。そこで、乳酸菌を併用することにより、酪酸によって抑制されてしまうTRAILの発現を回復させることができると考えた。本研究の成果により、食物繊維の代謝産物である酪酸による癌予防効果が乳酸菌の摂取により増強されるか否かを明らかにすることにより、癌の「分子標的併用予防」を目指す。平成24年度は、前年度に引き続きヒト末梢血単核球(PBMC)とヒト癌細胞の共培養モデルにおける、酪酸と乳酸菌の併用試験を行った。その結果、ヒト大腸癌細胞株HT-29に加え、HCT116に対しても、酪酸が乳酸菌の免疫賦活作用を有意に増強することを見出した。培地中のTRAIL量は、酪酸添加によって有意に減少していた。そこに乳酸菌を添加したところ、培地中TRAIL量は定常レベルにまでは回復した。しかしながら、乳酸菌のみを添加した条件ではコントロールに比較し、約10倍の顕著なTRAIL量の増加が認められたことと比較すると、乳酸菌によるTRAIL発現回復効果は、顕著とは言い難い結果であった。TRAIL受容体のキメラタンパク質を用いた阻害実験の結果、癌細胞の細胞死を阻害できなかったことから、酪酸と乳酸菌の顕著な併用効果は、TRAIL以外の因子によるものと考えられる。今後、さらにこの現象のメカニズムの解析を進めていきつつ、酪酸と乳酸菌の併用効果を動物実験レベルで実証していきたい。一方で、癌細胞に対し、TRAIL感受性を増強する成分を新たに3つ報告することができた。これらの成分と乳酸菌の併用効果の検証、メカニズム解析も進めていきたい。
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