研究概要 |
本研究では、分子遺伝疫学的解析による虚血性心疾患の病態を解明し、その予防医学への応用を目指すために、以下の(1)~(4)の観点から研究を実施した。 ( 1 ) 虚血性心疾患を対象とした臨床遺伝学的研究の基盤となる研究リソースの構築 ( 2 ) 痛風遺伝子ABCG2の病因変異(多型)と虚血性心疾患の関連解析 ( 3 ) 他の尿酸トランスポーター遺伝子を対象とした虚血性心疾患の関連解析 ( 4 )発症リスクと分子病態に基づく虚血性心疾患の予防法・治療法の開発に資する研究の展開 初年度については特に(1)の研究リソースの構築が進展し、予定数の虚血性心疾患のサンプルが得られており、臨床情報を整理し追加サンプルの収集を実施した。それらのサンプルに対して、現在ABCG2における病因変異となる2つの主要なSNPについて解析し、有意な結果が得られつつある。他の尿酸トランスポーター遺伝子についても、これまでに候補が絞られてきている。これらとABCG2の解析結果と併せて評価していくことにより、(4)の研究展開が十分に可能な段階に至ることができた。 また、虚血性心疾患を対象として解析している痛風遺伝子ABCG2についても、研究が進展して、高尿酸血症の発症機序に関する定説を覆すような新規メカニズムの解明につながる成果が得られた。すなわち、これまで尿酸排泄過剰によると考えられてきた高尿酸血症の多くは、実際には腎外排泄の低下(腸管からの尿酸排泄低下)が関わっていることが分かった。高尿酸血症と虚血性疾患を含む循環器疾患との関連は最近報告が認められるようになっており、ABCG2遺伝子がこれまで不明であった機序を介して、これらの循環器疾患に関連していることも考えられる重要な知見となった。(Ichida K, Matsuo H, Takada T, et al. Nat Commun, 3, 764, 2012)
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