研究課題
イオン(微粒子)放出型空気清浄器が家庭や職場、病院等で汎用されている。室内空気中に多量の安定なイオンを放出させ、浮遊するウイルス、細菌、真菌、さらにアレルゲンとなるハウスダスト等を分解・除去する作用がある。本機器はGLP(優良試験所基準)に適合した施設での安全性が確認されているが、その試験項目は限られたものである。本研究は我々が最近開発したナノ粒子健康影響評価システムを用いて、成獣及び妊娠期曝露による次世代への健康影響を検討することを目的としている。本年度は本格的な試験の準備段階として使用する機器の選定、曝露条件の設定、曝露の方法、時間、期間などを検討した。また、曝露チャンバー内に空気清浄機をセットし、イオンを発生させ、空気清浄機から放出されるイオンをマウスに曝露した。イオンの状態、単位体積当たりのマイナスイオン、プラスイオン、オゾン分子の数、水イオン粒子としての大きさ、安定性などを試験的に測定した。実際に実験動物への影響を解析することは次年度以降になるが、脳神経系及び生殖系への影響を調べるために適切なアッセイ系の候補を絞った。脳神経系では超微形態観察を行うとともに主に当研究室(梅澤雅和ら)が開発した新しい網羅的遺伝子発現解析(MeSH Term法)を用いて脳に対する影響を解析することにした。雄性生殖系では1日精子産生量を測定し、光学及び電子顕微鏡を用いて精子および精巣の超微形態観察を行なう。特に精細間内での精子遊離障害が有効な指標となることが示唆された。以上、本年度の予備的な研究を通して、次年度の本格的な解析に向けて準備が整いつつある。
2: おおむね順調に進展している
機器を販売する企業は性能と同時に安全性試験を行っている。GLP(優良試験所基準)に適合した施設で、皮膚刺激性・腐食性試験、眼刺激性、吸入毒性試験(肺組織の遺伝子影響評価)などである。それらのデータを取得済であることはウェブ上で公表されている。しかし、イオン放出型空気清浄器の健康影響に関する研究論文は今のところ、国内外ともにない状況である。我々は、自動車が排出する極微小物質(ナノ粒子)や工業的に作られるナノ粒子が妊娠期に母から胎盤を介して子に伝わり、極く微量で子どもの成長発達過程に多大な影響を及ぼすことを動物実験系で明らかにした。環境中の汚染濃度に基づいて行っているモデル実験系において、脳神経系や生殖系に影響が認められている。本来、無害といわれていた酸化チタンもナノ粒子の形状になると次世代に移行し、健康に影響を及ぼすことを明らかにした。市販の空気清浄器が放出するイオン(微粒子)をマウスに吸入させ健康影響を調べるのが本課題の目的である。成獣及び妊娠期曝露後出生する仔への影響を脳神経系及び雄性生殖系を指標に明らかにする目標を立てている。本年度はその目標を達成するために機器の選定、曝露方法、曝露条件等多くの基礎的な予備実験を行った。実際のチャンバー内でのイオン濃度も測定した。また、影響を明らかにするためのアッセイ系及び評価法を確立した。次年度の本格的な曝露実験に向けて準備が整ったといえる段階である。
曝露チャンバー内に空気清浄機をセットし、イオンを発生させる。空気清浄機から放出されるイオンを妊娠期のマウスに曝露する。イオンの状態、単位体積当たりのマイナスイオン、プラスイオン、オゾン分子の数、水イオン粒子としての大きさ、安定性などを測定する。その他合成される分子を飛行時間型二次イオン質量分析装置(TOF-SIMS)で解析する。そのチャンバー内に妊娠マウスを飼育し、妊娠期(2日目から18日目まで)連続曝露する。マウスを清浄空気の飼育室に移し、出産、3週間後に離乳、飼育を継続する。6週、12週の仔マウスの脳及び精巣を取り出し、影響を評価する。実験動物としては系統種の異なるマウス等を用いる。曝露時期は、最も反応性が高いと推定される妊娠期に実施するが、曝露期間、時期を変えて影響を検討する。検討対象臓器は脳神経系、雄性生殖系に絞る。脳神経系への影響解析脳内遺伝子変動の検討を行う。当研究室(梅澤雅和ら)が開発した新しい網羅的遺伝子発現解析(MeSH Term法)を用いる。脳組織の超微形態観察を行う。電子顕微鏡を用いた病理解析は、共同研究先である栃木臨床病理研究所に依頼する。生殖系への影響解析雄性生殖系への影響の検討を基本とし、精巣上体尾部精子性状(奇形率)、一日精子生産量を調べる。光学顕微鏡下で精細管組織像を観察する。精子遊離障害の割合を測定する。電子顕微鏡を用いた精子および精巣の超微形態観察を行なう。
解析機器はほとんど揃っており、2年目の研究費は主に実験動物購入代、その管理維持費、試薬代、遺伝子解析のための費用に当てる。残りは研究成果発表に関わる交通費、論文投稿費、別冊代として予算を組み立てた。
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