本研究は、イオン微粒子放出型の空気清浄機の安全性(生体影響)検証を目的として実施した。とくに、我々が最近開発したナノ粒子の次世代影響評価実験系を用いて、当該空気清浄機から放出されるイオンの妊娠期曝露による次世代への影響を検討した。まず、雄性及び雌性 ICR系マウスを飼育した曝露チャンバー内に、空気清浄機からイオンを発生させ、マウスに吸入させた(7~30日間成獣曝露)。同環境下でマウスを交配させ、妊娠マウスにも同様に妊娠15日目までイオンを吸入させた(妊娠期曝露)。妊娠期曝露による次世代影響については、出生仔(21日齢=幼児期及び12週齢=青年期)より試料を採取した。とくに、プレ実験により肝臓及び免疫系(胸腺、腸間膜リンパ節)に異常な所見が認められたことから、その詳細を調査した。マイクロアレイにより、肝臓における遺伝子発現変動を網羅的に解析した。その結果、妊娠期曝露により出生後21日目の産仔肝臓において、雌雄共通で肝異物代謝・抱合反応に関連する遺伝子群(Sult1e1など)に発現変動が認められた。このデータは当該イオンの影響の機能的特徴を示しているだけでなく、次世代への影響評価指標として有用であると期待される。妊娠期曝露による影響メカニズムの解明を進めるために、成獣期に直接イオンの曝露を受けたマウスの肝臓を解析した。その結果、組織中のプリン代謝物、尿素回路関連物質、リジン代謝物量の増加が認められた。以上は、イオン微粒子放出型の空気清浄機のさらなる安全性検証の必要性と、そこに活用可能なバイオマーカーを示した貴重な知見であると考えている。
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