研究課題/領域番号 |
23659365
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研究機関 | 地方独立行政法人神奈川県立病院機構神奈川県立がんセンター(臨床研究所) |
研究代表者 |
片山 佳代子 地方独立行政法人神奈川県立病院機構神奈川県立がんセンター(臨床研究所), その他部局等, 特別研究員 (70584374)
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研究分担者 |
岡本 直幸 地方独立行政法人神奈川県立病院機構神奈川県立がんセンター(臨床研究所), その他部局等, 専門員 (90116319)
助友 裕子 独立行政法人国立がん研究センター, その他部局等, 研究員 (50459020)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 健康格差 / 地理疫学 / GIS / 社会経済的要因 / 乳がん |
研究概要 |
具体的内容: GIS(Geographic Information System)を応用した地理疫学を本研究では採用し健康の格差、特にがん罹患・死亡の状況から検討した。神奈川県では女性のがん罹患第1位は依然として乳がんであり、これは関東を含め大阪などの都市域では共通の特徴とである。そこでがん罹患を図る唯一の計測指標である地域がん登録データの有効活用の検討も含め本年度は神奈川県における乳がん罹患の地域格差の状況を詳細に検討することとした。意義:2006年の乳がん標準化死亡比(SMR)は、47都道府県中最下位は東京都の118.7、4位が神奈川県114.3、大阪府が5位110.8という順位であった。東京都・大阪府の都会地域において乳がん死亡が多いということはこの地域の乳がんに関する医療が貧困なのかあるいは早期発見が不十分なのか、都会地域にエンデミックに発症しているのか、乳がん死亡データ状況からのみの結果評価では不十分であることは明らかである。そこで本年度は、2006年度地域がん登録データを使用し乳がん患者の住所地を元にGISを応用した地理情報システムプログラムを用いて罹患状況を視覚的に捉えた。疾病の発生状況などの空間分布に関して解析を行う地理(空間)疫学は罹患分布の様子を観察することが解析の第一歩である。点データ(乳がん罹患発生点)Mapと都道府県、市区町村単位の集計データMapを利用し地理疫学的な乳がん罹患の集積性の有無、さらに集積があるのであればその地域はどこかについて統計学的に決定する分析方法について検討した。重要性:がん対策を立案する際は、その地域の現状を詳細に把握してこそ有効な対策ができるはずである。本研究結果から集積地域の同定を示し、それらの地域の特定の要因(社会的、環境的要因)分析に繋げ、その結果を地域のがん対策や地域保健活動に生かすこと可能である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの疫学研究における地域間格差研究では一般的には都道府県別あるいは行政区域を単位として比較されることが多く、本来の相違が平均化された値となり、地域差の解析を行う際の隘路となっていたが、GIS(Geographic Information System)を応用した地域情報を本研究では採用することで、これまでの地域格差の研究に新たな形でアプローチすることができた。また近年、地域メッシュを単位とする社会経済指標の資料が整いつつある。GISを利用したメッシュ単位での解析も含め、がん罹患の唯一の計測指標である地域がん登録データを活用し、罹患状況とメッシュ単位での地域格差、あるいは罹患の分布の集積性の検討など新たな手法による解析結果は貴重な報告となると思わる。
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今後の研究の推進方策 |
神奈川県内での乳がんの罹患状況を詳細に把握することができたので、次のステップとしてメッシュ法による解析結果、地域の集積性(CDT: Cluster detection test)の解析結果をもとに、地域の要因分析に繋げていく予定である。分担研究者はヘルスプロモーションの専門家であり、これまでの研究と行政との関係をより連携させるためのフィールド活動を得意としている。市区町村の健康増進計画における支援的な環境整備と部門間連携を地域社会との連携も含み検討していく。地理疫学研究は、分析の目的にあわせ道路網や患者分布のように地理情報をその種類に応じて分類しそれぞれを別々のレイヤ(層)として管理する。GISを特徴づける機能の1つは、属性情報に基づき分布図を作成するコンピュータ・マッピングである。この機能により、表形式の情報の羅列に埋もれている地理的な分布特性が明らかにされる。具体的には、属性情報に応じて空間情報である点、線、面の図形式シンボル表現を指定できる。このような情報提供は、研究者以外の視点から見ても興味深くわかりやすい。またその次のステップとして、男性の胃がん罹患にも取り組みたいと考えている。性別部位別がん罹患はまた違う集積性と要因を持つはずであり、解析結果を乳がん同様に有効活用していきたいと考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
23年度の研究成果を発表していきたいと考えている。その1つにUICC(国際対がん連合)が主催する2012国際がん会議(カナダ)に出席する予定である。UICCは1933年に結成され、がん研究、対がん運動の振興、がん知識普及、フェローシップ運営、国際的統計の作成、世界記共通のがん診断法、分類法の設定など多くの活動を展開している。欧米先進国の地域がん登録は非常に進んでおり法制度化されていることもあり、かなり正確ながん罹患率、生存率が公表されている。その点日本のがん登録は未熟であるが、今後の日本のがん罹患計測指標の発展のためにはどのような視点が大切になってくるのか、各国のがん研究者と交流をはかりたいと考えている。また国内外の学会には積極的に参加していく予定である。そのため今年度の5~6割は旅費としての使用を想定しているところである。その他、地域でのヘルスプロモーション活動諸費用に使用する予定である。
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