c-SrcはSrc型チロシンリン酸化酵素群の一つであり、脳神経系で発現が高く、脳のアスパラギン酸受容体(NMDAR)の制御因子としてなど様々な機能に関与していると推定される。しかし、他のSrc型酵素の相補機能により、生体レベルでc-Srcのみの脳神経の機能の全容を検証できる遺伝子改変動物が得られていない。そこで、神経細胞で機能制御に関わり、他のSrc型酵素にはないc-Srcのリン酸化部位セリン75に、リン酸化の阻害変異(SA)及び擬似変異(SD)を各々導入した新規c-Srcノックインマウスを作製した。 エタノールの脳機能障害は現代の医学的社会的に重大な課題の一つである。エタノールの脳神経系に及ぼす影響は、多様な神経伝達物質系への作用の結果、生体行動レベルに表れると考えられる。 本研究ではこれらのマウスが、生体行動に及ぼすエタノール効果の生体モデルとなり得るのかを検討した。行動の評価はエタノールの摂取(消費及び嗜好)についてtwo-bottle選択試験により解析を行い、急性のエタノールの脳に及ぼす効果(催眠効果)の相異は正立反射消失時間の測定により解析した。また、エタノール長期投与後の離脱による効果をRitzmann and Tabakoffの評価基準で観察した。 SD/SDホモ接合体マウスはエタノール消費量が野生型より少なく、エタノール嗜好性も弱かった。一方、SA/SAマウスは調べた限りにおいて、エタノール消費量が野生型より多く、エタノール嗜好性も強かった。なお、正立反射消失時間はSD/SD及びSA/SAとも有意な差が認められなかった。また、Ritzmann and Tabakoffの評価も差がなかった。 これらの結果から、c-Srcがエタノール欲求行動に関与することが明らかになり、アルコール依存症の治療創薬や予防法の開発の手掛かりとなる可能性が示された。
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