本研究課題では、実際の検視業務に導入可能な死体トレースデバイスの開発を目指した。そのうち最も重要な仕様は、①直腸内に留置可能な大きさで、②複数点(3点以上)同時測定が可能、③無線等によるリアルタイムモニタリングが可能であることである。これらの要求を満たすため、デバイスの試作を行った。技術的には可能であると考えられたが、製作技術に問題があるためか、要求する測定精度を確保した上で、上記①から③の条件を満たすデバイスの完成には至らなかった。特に、電子回路から発生するノイズの除去が最大の課題であった。予備的に複数点同時連続測定実験を個々のデバイスを並列接続して行ったが、ここでは有効な結果が得られていることから、無線による複数デバイスの干渉が原因ではないかと考えられた。 一方、本研究課題が実務への導入を目的としていることから、警察官等向けのマニュアルを紙媒体のみならず、映像によるものを新たに作成した。ただし、デバイス自体が完成に至らなかったため、従来の手法を踏襲する内容にとどまった。この過程で、解剖過程の全記録及び鑑定書作成補助システムという新たな方向性のヒントを得た。 死体トレースデバイスは、死後経過時間推算のみならず、死体の保管・運搬等における全過程の可視化を目指すものである。特に殺人等の刑事事件においては、証拠能力の向上という点で極めて有効であり、昨今の社会的ニーズに合致したものと考えられる。当初の研究計画では、各種データのリアルタイムモニタリング及び自動同期を実現させる予定であったが、その中心となるデバイスの完成には至らなかった。しかし、各機能の有効性については検証されたので、今後はこれら機能の統合により、デバイスを完成させたい。
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