研究課題/領域番号 |
23659375
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
海老原 孝枝 東北大学, 加齢医学研究所, 助教 (30396478)
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研究分担者 |
海老原 覚 東北大学, 大学病院, 講師 (90323013)
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キーワード | 嚥下障害 / TRPV1 / カプサイシン / カプシエイト / ふりかけ |
研究概要 |
辛みのない唐辛子CH19-甘からカプサイシン類縁体カプシエイトを抽出し、カプシエイト類含有粉末(フリス)製剤「カプシエイトふりかけ」を作成した。本製剤は0.36%のカプシノイドが含有されている乳化製材である。「カプシエイトふりかけ」は使用直前まで、湿気をさけて冷蔵した。対象は東北大学病院内部障害リハビリテーション科を嚥下障害の評価・リハビリテーション目的にて紹介受診した様々な基礎疾患を持つ嚥下障害患者である。書面にてインフォームドコンセントを得て嚥下造影による研究を施行した患者は現在までのところ5名である。同意を得られた嚥下障害患者において3gの1%ゼリーに「カプシエイトふりかけ」をかけた時と、そうでないときの嚥下造影を観察した。録画した嚥下造影のDVDを解析しゼリー嚥下時の喉頭挙上の距離、時間、速度を解析した。「カプシエイトふりかけ」をかけないとゼリーを誤嚥してしまうような人でも「カプシエイトふりかけ」をかけることにより、誤嚥しなくなるケースがあった。現在までのところ5人の嚥下障害患者に対して研究を実施し、嚥下造影における喉頭拳上の速度をVideo解析した。喉頭拳上の距離は「カプシエイトふりかけ」をかけない時に比べ、「カプシエイトふりかけ」をかけたときの距離は長かった。また、喉頭拳上の時間は「カプシエイトふりかけ」をかけない時と、かけた時の時間はほぼ同程度であったが、喉頭拳上の速度は「カプシエイトふりかけ」をかけない時に比べ、「カプシエイトふりかけ」をかけたときは、増加傾向にあった(p<0.08)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ふりかけとは、主に炊いた米飯にふりかけて使う、粉末状、粒子状、あるいはそぼろ状の調味料的副食物のことをいう。食事に際して調理するのではなく、作り置きの常備菜的なものを指すことが多く、商品化された市販品の種類も豊富である。ふりかけは現在ではあらゆる食事に振りかける可能性がある。今回、我々は、カプシノイドが含有されている乳化製材であるカプシエイト類含有粉末(フリス)製剤「カプシエイトふりかけ」を作成した。そして現在のところ5人の患者に本研究を施行した。その結果、「カプシエイトふりかけ」をふりかけたゼリーはそれを飲み込むときの嚥下機能がそうでないゼリーに比べてよい傾向となった。「カプシエイトふりかけ」を嚥下障害高齢者の食事にササッとふりかけるだけで、食事の味を変えることなくその食事を飲み込みやすくする可能性が示唆された。これは非常にいい結果であり、「カプシエイトふりかけ」が高齢者の嚥下障害を改善する可能性が示唆され、おそらくは今後は例数を増やしていけば、有意な結果が得られることと思われ、おおむね順調に進展していると考えられる。さらに新たな舌骨を指標とするVFの嚥下解析法を開発しつつある。舌の基底部を固定している舌骨は,舌の保持には重要であり,非常によく動く器官である。舌骨の動きと嚥下関連器官との協調は,嚥下を理解するうえで重要であることを考えると、今後の研究の飛躍的進展が期待される。
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今後の研究の推進方策 |
典型的な高齢者の嚥下障害者においては、嚥下反射の遅延が特徴である。この嚥下反射の遅延を改善することが高齢者の嚥下障害治療の重要なポイントになる。本研究班のこれまでの研究にて唐辛子辛み成分のカプサイシンが嚥下知覚神経末端のTRPV1を強力に刺激して、高齢者の遅延した嚥下反射を改善することを見出してきた。これまでの本研究班において前年度はカプサイシン含有の口腔内溶解フィルムを開発し、その効果を調べてきた。その過程で一部の高齢者においてはカプサイシンの辛みを受け付けない場合があることが判明した。そこでなんとか辛みを惹起せずにTRPV1を刺激して、嚥下反射を改善する実用的な方法を見出すのが今回の研究の目的である。トウガラシに含まれる辛味成分カプサイシンが、TRPV1を刺激してカラダを活発にすることは良く知られている。けれど、刺激が強すぎて、いままでは多くを摂取することができなかったことより、辛くない新種のトウガラシ「CH-19甘」にのみ多く含まれる希少なカプサイシン類縁体である新規天然成分「カプシエイト」が注目されてきたという経緯がある。私たちはこれまでの研究で「カプシエイト」が高齢者の辛味を惹起せずに嚥下反射を改善するころを見出してきた。したがって「カプシエイト」を利用することにより、高齢者の嚥下障害を改善し誤嚥を予防する実用的な方法が開発できると考えた。そこで本研究では、「カプシエイト」を利用した嚥下を改善するふりかけの開発を試みるのが本研究の推進方策である。
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次年度の研究費の使用計画 |
東北大学病院内部障害リハビリテーション科を嚥下障害の評価・リハビリテーション目的にて紹介受診した様々な基礎疾患を持つ嚥下障害患者から書面にてインフォームドコンセントを得て嚥下造影による研究を施行する患者の例数を増やしていく。自由咀嚼時の嚥下運動をVideo Fruorographyで矢状面から撮影し、1フレーム毎の静止画面上で計測する。各被験者において食塊量,食道入口部開大量,食道入口部通過時間,及び,舌骨の垂直的,水平的最大移動距離を計測することを試みる。第2頚椎の錐体と錐弓の交点と,上顎中切歯に付与した鉛玉を結びX 軸とし,先の交点から垂線を下ろしY 軸とし、舌骨の小角先端をP 点としX-Y 座標軸で,舌骨の動きを計測することを試みる。どうじに「カプシエイトふりかけ」を食した時とそうでない時の患者様の唾液、血清、髄液を採取しその中のペプチド(サブスタンスP、グレリン、ニューロペプタイドY、ニューロキニンA、アジポサイトカインなど)や炎症性サイトカイン(TNFα、IL-1β、IL-6、INFγなど)の測定を行うことを試み嚥下改善のメカニズムの探索も行う。生化学的な検査と並行して唾液量や口腔内乾燥度などの物理的指標の違いも調べる。 また検討事項として「カプシエイトふりかけ」の問題点として安定性があげられる。乾燥した状態なら安定であるが、吸湿し水分を含むと分解していくと思われる。本研究では経口摂取直前にゼリーに「カプシエイトふりかけ」をふりかけているが、これが時間がたっても同じような効果があるのかどうか、時間経過とともに見ていく必要がある。 また、これらの研究成果がある程度出てきたら、内外の意見を聞くために学会発表を積極的に行い議論を深めていく。
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