研究概要 |
膵炎に関連する遺伝子変異としては、これまでトリプシンとその阻害蛋白に焦点が当てられ、いくつかの遺伝子異常が報告されている。しかし既知の遺伝子異常を認めない原因不明の慢性膵炎患者も数多く存在し、その病態の全容はいまだ解明されていない。次世代シークエンサーは、従来のキャピラリーシークエンサー数百台分のデータ生産量を1台で賄えるとされる。蛋白質を符号化しているmRNAの翻訳領域、すなわちエクソームのみを網羅的に解析する手法が注目され、近年いくつかの疾患遺伝子が新たに報告されている。エクソームの総和は32Mb余りであり、遺伝病の85%以上を説明できるとされる。本研究では、遺伝的要因が強く疑われる膵炎症例を対象に、次世代シークエンサーによりエクソーム領域を網羅的に解析し、膵炎に関連する遺伝子変異を同定することを目的とする。平成23年度は、既知の遺伝子異常が認められない遺伝性膵炎もしくは家族性膵炎の3家系7症例を対象に解析を行った。具体的にはillumina社のHiseq2000によりリード長101bpのpaired-end readsを行い、総リード数1,234,752,462、1症例あたり平均176,393,209を読み取った。読み取ったリードをヒトゲノムreference配列にマッピングした結果、ターゲット領域の平均depthは109~214と良好であった。各症例のエクソン領域にそれぞれ約25,000個のvariantを認め、そのうちdbSNP135と1000ゲノムプロジェクトで同定されていない新規の異常は、各例それぞれ約1,100個前後であった。今後、このうち非同義置換変異で、かつ各家系で共通している遺伝子を候補として検出し、他の慢性膵炎症例においても解析する予定である。
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