研究課題
近年の網羅的な研究により、細胞の増殖・移動を制御する分子群が数多く見出されており、それら分子群により形成される細胞内情報ネットワークの解明が進んでいる。一方、細胞内情報ネットワークの作動には、関連分子群が細胞内の決められた場所に特異的に集積することが必須であると考えられている。このような状況下で、細胞の増殖・移動を制御する分子群の部位特異的集積機構については不明な点が多く、その解明が細胞の増殖・移動を制御する細胞内情報ネットワークの全容を把握する上で重要な課題となっている。そこで、本研究では、細胞の増殖・移動を制御する分子群の部位特異的集積に細胞内小胞輸送が関与しているとの仮説を立て、細胞内小胞輸送関連分子であるalpha-Taxilinに焦点を絞り、細胞の増殖・移動を制御する細胞内情報ネットワークの「場形成」機構における新たな概念を構築することを目的として研究を進め、本年度は、alpha-Taxilinが上部・下部消化管や精巣などの増殖細胞が多く存在する組織に発現しているものの、肝臓や腎臓などの増殖細胞が少ない組織にはほとんど発現していないことを明らかにした。さらに、上部・下部消化管や精巣では、alpha-TaxilinがKi-67増殖マーカー陽性の細胞にほぼ限局して発現していることも明らかにした。以上のことから、正常細胞において、alpha-Taxilinは細胞の増殖・移動に関与している可能性が高くなった。また、マウスの部分肝切除後肝再生におけるalpha-Taxilinの動態を検討し、alpha-Taxilinの発現が肝再生に伴って上昇することを明らかにした。本年度の本研究で明らかになったalpha-Taxilinのマウス組織分布、ならびにマウス部分肝切除後肝再生でのalpha-Taxilinの動態は、次年度以降の本研究の推進に大きく貢献するものと思われる。
2: おおむね順調に進展している
当初の本年度の研究課題のうち、マウス部分肝切除後肝再生におけるalpha-Taxilinとその関連分子の動態解明に関しては、alpha-Taxilinが部分肝切除後肝再生に伴って発現が一過性に亢進することを見出すことが出来た。さらに、マウスにおけるalpha-Taxilinの組織分布の解析から、alpha-Taxilinが部分切除前の肝臓ではほとんど発現していないが、上部・下部消化管や精巣などの組織においてKi-67陽性細胞に限局して発現していることを見出すことが出来た。一方、alpha-Taxilinとその関連分子の遺伝子改変マウスの解析に関しては、遺伝的影響を除外するためのalpha-Taxilinノックアウトマウスのバッククロスが順調に進んだ。このように、本年度の本研究の目的は、ほぼ達成されたと考えている。
今後は、当初の研究計画通り遺伝的影響を除外したalpha-Taxilinノックアウトマウスを用いて部分肝切除後の肝再生の動態を解析する。さらに、細胞の増殖・移動を制御する分子群の部位特異的集積に及ぼすalpha-Taxilinと本研究で見出したalpha-Taxilin結合分子の影響を解析する。さらに、本研究で見出したalpha-Taxilin結合分子の肝細胞癌における動態を解析する。
遺伝的影響を除外するためのalpha-Taxilinノックアウトマウスのバッククロスにやや時間を要したため、本年度使用予定の研究費の一部を次年度の研究計画課題に使用し、次年度の研究課題をより迅速に進めることとする。
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Cell Struc. Func.
巻: 37 ページ: 111-126