研究課題
生体内には、内因性リガンドが不明ないわゆるオーファン受容体が数多く存在する。この研究計画では、幹細胞マーカーとして消化管幹細胞に発現するオーファン受容体LGR5の内因性リガンドを探索し、この内因性リガンドの腸管粘膜再生への効果を調べる。 H23年度にはLGR5受容体の安定発現細胞株を樹立し、最適なアッセイ条件の検討を行った。市販のヒト脳cDNAをテンプレートとして、LGR5受容体をPCRで増幅、プラスミドに組み込んで発現ベクターを構築した。CHO細胞にこのベクターをトランスフェクションし、G418耐性の安定発現株を得た。mRNAの発現レベルが最も多い細胞株を選んで、これをアッセイに用いた。アッセイ方法は細胞内cAMP濃度の上昇活性を指標とした。細胞内cAMP濃度はαスクリーン法を用いた。この方法は短時間で細胞内cAMP濃度の測定が可能で、感度も高かった。アッセイ条件を検討した結果、反応時間を4~5時間と長くすることで、バックグランドと陽性シグナルとの差がもっとも大きく、高感度でアッセイ可能なことを確かめた。 以上のアッセイ条件の検討に昨年度、時間を費やしたが、引き続き動物組織のペプチドサンプルを使ったアッセイを行った。まずLGR5の発現が消化管とともに多い脳組織のサンプルを保有していたので、脳のペプチド画分のスクリーニングを行った。その結果、分子量約3000前後の部分に活性が認められ、ゲル濾過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、HPLCの順に展開し、最終精製を行った。アミノ酸シークエンスの解析の結果、このペプチドは既知のCGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)であることが判明した。おそらくCHO細胞株に内因性に発現している受容体に作用したものと考える。平成24年3月現在、LGR5の内因性リガンドは見つかっていない。
2: おおむね順調に進展している
ターゲットとしているLGR5の高感度のアッセイ系を構築した。未知の生理活性ペプチドやペプチドホルモンの探索には、よいアッセイ系の構築がまず必要なものなので、このアッセイ系の構築、アッセイ条件の検討には、十分な時間をかけなければならない。そのために昨年度の大部分をアッセイ系の作成に時間を費やした。このアッセイ系を使って、まず手元にあり、かつLGR5が消化管とならんで発現量が多い脳組織のスクリーニングを行った。 残念ながら既知のペプチドが見つかっただけで、真のリガンドは見つからなかったが、方法論として十分に有効であることが確かめられたと思う。 次年度にはこのアッセイ系を使って、スクリーニングを進めていきたい。
昨年度、構築したLGR5安定発現細胞株を用いたアッセイを継続する。昨年度は脳のペプチド画分のアッセイを行ったが、本年度からは本格的に脳以外に、腸管、膵臓、下垂体、副腎などの組織サンプルのアッセイを行う。未知のリガンドの分子量はペプチドよりも大きいことも予想されるために、組織の抽出方法を検討して、分子量1~3万のペプチド画分のアッセイも行う。アッセイの指標としては、これまでと同じく細胞内cAMP濃度の上昇活性で進めていく。 さらにショウジョウバエのLGRホモログの内因性リガンドが、バーシコンというヘテロダイマーのタンパク質であるが、このバーシコンにアミノ酸配列のホモロジーが高い、ほ乳類ホモログの活性を検討する。バーシコンを使った、ゲノムデータベースの検索から、いくつかのほ乳類バーシコン類似タンパクをピックアップした。これらのホモログタンパクのヘテロダイマーが、LGR5の内因性リガンドの可能性があるため、大腸菌あるいは培養細胞でタンパク質を合成させ、上記のLGR5発現細胞株でのアッセイを行う。この場合も細胞内cAMP濃度の上昇を指標として、活性を追っていく。
次年度は組織のアッセイが主となるので、アッセイ用の試薬、細胞培養試薬、組織抽出のための試薬、クロマトグラフィーの試薬などが必要となるので、すべて消耗品代として使用する予定である。
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Biochem Biophys Res Commun
巻: 414 ページ: 44-48
巻: 410 ページ: 872-877