胃MALTリンパ腫の症例集積が遅れ、予定した症例数に達しなかったため、遺伝子発現および免疫組織染色解析による腫瘍局所の免疫動態変化とMALTリンパ腫寛解の解析は不十分であった。解析可能な前向き症例数は3例のみで、内1例のみがH.pylori陽性であり、2例は陰性であった。陰性例も含めて除菌治療を行い、経時的に内視鏡検査による組織採取で除菌前後の経過を見たところ、H.pylori陽性例のみでMALTリンパ腫の寛解を認めたが、陰性の2例は寛解に達しなかったため3~6カ月後に放射線治療を施行し寛解を得た。H.pylori陽性除菌成功例では、除菌後2カ月後の内視鏡検査でMALTの寛解を得た。この1例につきRNA発現解析を16遺伝子に関して施行し、除菌前の発現レベルに対する発現量の増減を経時的に見たところ、Foxp3、CD4はそれぞれ除菌後前値の3%、19.5%に減少を認めた。他の免疫抑制性分子・活性化分子の発現動態に関しては一定の傾向を示さなかった。Foxp3の免疫染色では除菌前Foxp3陽性細胞数97.7±35.5/HPF、除菌後 0/HPF (p=0.037)と除菌治療に伴い有意な減少を認め、遺伝子発現解析の結果を指示する結果を得た。 当院で過去に除菌治療を行った8例のH.pylori陽性胃MALTリンパ腫症例の病理検体を用いて、除菌治療前後のFoxp3陽性細胞数を経時的に評価した。除菌治療によりMALTが寛解した症例ではFoxp3陽性細胞数は短期間で減少する傾向を認めたが、MALTの寛解に至らなかった2症例では逆にFoxp3陽性細胞数は有意な上昇を認め、局所放射線治療を必要とした。また、除菌治療後、MALTリンパ腫の寛解に時間を要した1例ではFoxp3陽性細胞数の減少が緩やかであり、制御性T細胞の免疫抑制と胃MALTリンパ腫寛解の間に相関性を示唆する結果であると解釈できる。
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