研究課題
(1) XX♀、XX♂、XY♀、XY♂の4系統マウスの確立:Sry遺伝子がY染色体から常染色体に転座したXY-Sryマウス(性腺上は♂;"XY♂")(McPhie-Lalmansingh AA et al. Horm. Behav. 2008;54:565-570)はJackson Laboratoryから入手した。XY-Sryマウス(性腺上は♂;"XY♂")とXX♀を交配し、XX♀、XX♂、XY♀、XY♂の4系統マウスを樹立した。(2) 4系統マウスにおけるベースラインの心機能の検討:● XX♀、XX♂、XY♀、XY♂の4系統マウス間で、心電図、心エコーなどの基礎的心機能データの計測を行った。ベースラインのデータでは、XX染色体とXY染色体間に有意な違いは観察されなかった。●連携研究者の栗原裕基博士(東京大学医学部)が開発した、ink jet法により発生段階からマウスの冠動脈微細構造を可視化する技術を用いて、4系統マウスで冠動脈を可視化した。冠動脈主枝の直径は、XX♀、XX♂とXY♀、XY♂で有意な差は認めなかった。一方、冠動脈分枝の直径は、XX♀、XX♂に比べてXY♀、XY♂で有意に大きかった。この分枝の直径の違いの機序を薬理学的に検討した。一酸化窒素ドナーを投与すると、XX♀、XX♂とXY♀、XY♂間で冠動脈分枝直径の違いが消失した。同様に、Caチャネルブロッカーを投与してもXX♀、XX♂とXY♀、XY♂間の冠動脈分枝直径の違いが消失した。以上から、冠動脈分枝直径はXX染色体に比べてXY染色体で太いこと、これは冠動脈の解剖学的な違いによるのではなく、平滑筋の細胞内シグナル伝達機構の違いによることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
第1の目的であった、XY-Sryマウス(性腺上は♂;"XY♂")とXX♀を交配し、XX♀、XX♂、XY♀、XY♂の4系統マウスを樹立することに成功した。心機能のベースラインの計測は遂行することができた。当初の計画では、これらの4系統マウスの心機能の基礎データの違いを検討することを目的としたが、研究遂行中に冠動脈にXX染色体とXY染色体の明らかな違いがあることが判明したので、先にそちらのメカニズムを明らかにする方が成果を早めに上げるのに効率的と考えて、そちらを優先して行った。その結果、冠動脈のXXとXYの違いが血管平滑筋の細胞内シグナル伝達機構の違いによることを明らかにすることができた。以上から、おおむね予定していた実験は遂行することができ、実験遂行中に得られた結果から当初計画していなかった実験を行い結果を得ることができたので、全体としてはおおむね計画通りに進んでいるものと考えている。
本年度は、冠動脈平滑筋細胞内シグナル伝達機能にXX染色体とXY染色体で違いがあることが明らかとなったので、当初の計画を変更して、この陽性結果が得られた所見の詳細を検討する。XX染色体とXY染色体で冠動脈におけるアレイ解析を行い、トランスクリプトームの違いを明らかにする。この結果をベースに、両者の細胞内シグナル伝達機構の違いの詳細を明らかにする。また、ベースラインでは心機能に大きな違いが見られなかったので、テレメトリー心電図で24時間心電図の記録、圧負荷あるいは心筋梗塞における心機能変化、など外的環境変化に対する適応力の違いを検討する。
次年度の研究費の使用計画としては、当初の計画通りに使用する。具体的には、動物の飼育代、麻酔薬などの一般試薬、心エコー用の試薬など一般試薬用に1,000,000円、研究成果の学会発表のための旅費に200,000円、論文作成のための英文チェッカーや投稿料を100,000円を予定する。
すべて 2012 2011
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (27件) 図書 (1件)
Circulation Journal
巻: 76 ページ: 293
PLoS ONE
巻: 6 ページ: e19897
Nihon Yakurigaku Zasshi
巻: 138 ページ: 192