私達は血管内皮細胞に高い発現を示す新規遺伝子を世界に先駆けて発見し、ARIA と名付けて報告した。 ARIA は PI3 キナーゼに拮抗する脱リン酸化酵素である PTEN と結合し、PTEN を細胞膜近辺に繋ぎ止めるアンカー蛋白として機能する。その結果、PTEN による細胞膜リン脂質の脱リン酸化が亢進し、PI3 キナーゼの作用が減弱する。本研究課題で、私達は ARIA が心筋細胞にも発現し、心筋細胞死を制御することを見出した。ARIA は心臓においても PI3 キナーゼ/Akt シグナルを調節しており、ARIA ノックアウトマウスでは、心筋細胞がアポトーシスに抵抗性となり、ストレス誘導生心筋障害を起こしにくいことを見出した。心臓特異的に PI3キナーゼドミナントネガティブ体を過剰発現するトランスジェニックマウスでは ARIA 欠損による心保護作用が消失したことから ARIA は心臓における PI3 キナーゼ/Akt シグナルの調節を介して心筋細胞死を制御していることが明らかとなった。PI3 キナーゼ/Akt はインスリンの主要なシグナル伝達経路であり、また ARIA は脂肪血管新生の調節を介して肥満の進展に関わる可能性が高いことから ARIA はメタボリック症候群と心機能を繋ぐ新しいパスウェイを形成している可能性が示唆された。
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