研究課題
申請者は,腺癌関連糖鎖抗原としてKL-6(Krebs von den Lungen-6)を発見した.これはMUC1ムチンの亜分子であるが,後に非常に優れた間質性肺炎の血清マーカーであることが明らかとなったのである.一方で,KL-6は癌細胞関連抗原としての性格も有している.本研究では,癌転移モデルにおいて,抗KL-6抗体が免疫細胞の細胞傷害性を増強することにより,既に日常臨床に応用されている抗体治療薬の治療効果を抗KL-6抗体が増強しうるか否かを明らかにすることを目的としている.平成23年度から24年度にかけて,まずハイブリドーマより抗体精製キットを用いて,抗KL-6抗体を大量精製した.血清診断に用いる際と比較して,細胞実験や動物実験で抗腫瘍効果を検討する際には抗KL-6抗体は非常に大量に必要になるために,抗KL-6抗体の精製に多くの時間を要した.一方で,約30種類のヒト肺癌細胞株,約10種類の乳癌細胞株を用いて,KL-6の発現,erbB2の発現,NOD SCIDマウスへの生着率などを検討し, NOD SCIDマウスへの生着率の良い株を約10株程度選んだ.さらに,NOD SCIDマウスを用いた同所性移植癌転移モデル(癌リンパ節転移モデル,癌多臓器転移モデル)の樹立することができた.本モデルを用いて平成25年度以降は既存の抗体治療薬の治療効果を抗KL-6抗体が増強しうるか否かを明らかにすること検討したいと考えている.平成24年度は,抗KL-6抗体がHerceptinなどの分子標的治療薬の抗体依存性細胞傷害(Antibody-Dependent-Cellular-Cytotoxicity :ADCC)活性を増強することができるか否かについて,通常の実験施設で施行可能な細胞傷害性検出キット(LDH)を用いて複数の悪性腫瘍に対する細胞株に対してスクリーニングを行った.
3: やや遅れている
平成23年度から24年度にかけてはハイブリドーマより抗体精製キットを用いて,抗KL-6抗体を大量精製したが,血清診断に用いる際と比較して,細胞実験や動物実験で抗腫瘍効果を検討する際には抗KL-6抗体は非常に大量に必要になるために,抗KL-6抗体の精製に多くの時間を要した.大量に精製したこれら抗KL-6抗体が本当にKL-6を認識するのか否かについて,フローサイトメトリー,組織免疫染色,ウェスタンブロットなどを用いて確認することにも多くの時間を要した.さらに,NOD SCIDマウスを用いた同所性移植癌転移モデル(癌リンパ節転移モデル,癌多臓器転移モデル)の樹立に時間を要した.しかし最終的には,NOD SCIDマウスの胸壁より,マトリゲルと混合させた癌細胞株を直接肺内へ注入することにより,肺内に腫瘍を形成し,なおかつ高率に縦隔リンパ節転移を来す癌リンパ節転移モデルを作製することが可能になった.一方で,NOD SCIDマウスの尾静脈より,癌多臓器転移モデルの作製が可能になった.抗KL-6抗体が免疫細胞のADCC活性を増強することにより,Herceptinなどの抗体治療薬の治療効果を増強しうるか否かを細胞傷害性検出キット(LDH)というRIを用いない方法でスクリーニングすることで大幅に時間を短縮することが可能になった.一方で,当初予定していたKL-6分子の精製が本年度は行うことができなかった.平成25年度は,研究スタッフの増員などにより,当初の予定通りに研究成果を達成する予定である.
平成25年度は,以下の検討を行う.(1)抗KL-6抗体単独療法の癌細胞株に対する抗腫瘍効果:癌細胞株に抗KL-6抗体を添加することで,細胞増殖能,細胞浸潤能ならびに細胞接着能を抑制しうるかについて検討する.同時に,抗KL-6抗体がADCC活性,CDC活性,LAK活性を来しうるかについても検討をする.(2)抗KL-6抗体と分子標的薬の併用療法の癌細胞株に対する抗腫瘍効果:癌細胞株に抗KL-6抗体をCetuximab, Trastuzumab,Bevacizumabなどの分子標的薬と同時に添加する.抗KL-6抗体をモノクローナル抗体薬と併用することにより,癌細胞株の細胞増殖能,細胞浸潤能ならびに細胞接着能を抑制しうるか,ADCC活性,CDC活性,LAK活性を増強しうるかについて検討する.(3)抗KL-6抗体単独療法の癌動物モデルに対する抗腫瘍効果:癌リンパ節転移モデル,癌多臓器転移モデルに対して,抗KL-6抗体及びコントロールマウスIgGを週に2回の間隔で尾静脈または腹腔内より投与を行う.移植後2,3,4週間目に,肺内腫瘍サイズ及び全身への転移の程度を調べ,抗KL-6抗体による抗腫瘍効果を検討する.(4)抗KL-6抗体と分子標的薬の併用療法による癌動物モデルに対する抗腫瘍効果:癌リンパ節転移モデル,癌多臓器転移モデルに対して,1)抗KL-6抗体単独群と抗KL-6抗体と2)分子標的治療薬の併用群に分けて検討を行う.薬剤を週に2回の間隔で尾静脈または腹腔内より投与を行う.移植後2,3,4週間目に,肺内腫瘍サイズ及び全身への転移の程度を調べ,抗KL-6抗体の分子標的薬への上乗せ効果を検討する.
研究遂行に必要な設備は広島大学分子内科学教室ならびに広島大学ライフサイエンス機器室に概ね備わっているために,経費の主要な用途は消耗品である.来年度は,KL-6をはじめとする血清マーカーなどの測定試薬,ゲノム関連試薬,SNP関連試薬,動物投与試薬,動物維持費,細胞培養用試薬・器具などの購入が必要である.
すべて 2012
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件) 学会発表 (5件)
Pathobiology
巻: 79 ページ: 24-33
10.1159/000331230.
Respir Med
巻: 106 ページ: 1756-1764
10.1016/j.rmed.2012.09.001.
Respir Investig
巻: 50 ページ: 3-13
10.1016/j.resinv.2012.02.001.
Int J Cancer
巻: 130 ページ: 377-387
10.1002/ijc.26007