研究概要 |
腎臓髄質外層は動静脈が並走することから先端程酸素分圧が低く、また能動輸送によるNa+の再吸収が行われることから酸素消費量が多いため虚血に陥りやすい構造となっている。本研究は低酸素による腎障害の機序を明らかにすることを目的とした。 蛍光顕微鏡によりヘンレのループ太い上行脚(mTAL)における酸化ストレス産生を評価したところ低酸素条件下ではミトコンドリア由来のスーパーオキサイド産生ならびに過酸化水素産生が上昇することが明らかとなった。この応答はミトコンドリア呼吸鎖複合体I阻害剤rotenoneならびにアンジオテンシンII受容体I型(ATIR) 拮抗薬losartanによって有意に抑制された。腎臓虚血再灌流は腎髄質血流量を低下させるが、この反応はミトコンドリア内スーパーオキサイド消去剤であるMitoTEMPOの前投与により有意に抑制された。 [15O]H2Oを用いたポジトロン断層法(PET)によるヒトの腎臓髄質血流量の変動を測定した。同意を得られた健康な被験者において飲水負荷の前後で腎臓髄質血流量を測定したところ、前値に比べて飲水負荷後の腎血流量の増加が示唆された。また18F-FRP170による低酸素をプローブを用いたPETも確立した。 Prolyl hydroxyrase (PHD)の活性低下は低酸素誘導因子(HIF)の発現を上昇させることから、PHDのノックアウト(KO)マウスの作成を試みた。タモキシフェン誘導性にPHD2ならびにPHD1,2,3を欠損するCre- PHD2-KOマウスならびにCre-PHD1,2,3-KOマウスを作成した。Cre-PHD2マウスにタモキシフェンを投与して虚血再灌流による腎髄質血流量の応答を測定した。 これらの研究結果より、低酸素状態は腎臓ミトコンドリア酸化ストレス産生を上昇させて腎髄質血流量を低下させることにより腎障害を増悪させる可能性が示された。
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