研究課題/領域番号 |
23659441
|
研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
成田 一衛 新潟大学, 医歯学系, 教授 (20272817)
|
研究分担者 |
後藤 眞 新潟大学, 医歯学系, 講師 (00463969)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
キーワード | IgA腎症 / 慢性糸球体腎炎 / 家族性 / 次世代シークエンサ |
研究概要 |
本研究の目的は、家族性IgA腎症の疾患感受性遺伝子を同定し、本症の発症機序をより詳細に理解することである。IgA腎症の発症機序に関する多くの研究により、IgA1分子のヒンジ部糖鎖不全の関与など、徐々に明らかにされているが、未だ詳細は不明である。gA腎症には家族内集積が認められ、発症には遺伝要因が関与していると考えられる。遺伝要因の関与が強いと考えられる家族性IgA腎症のゲノム解析により、リスク遺伝子が同定され、IgA腎症の疾患パスウェイが明らかになる可能性がある。一方、家族性IgA腎症の原因を明らかにするために、今まで多数の家系を対象とした連鎖解析が行われてきたが、現在までに責任遺伝子は同定されていない。近年、次世代シーケンサによる大量の遺伝子配列情報から家族性希少疾患を中心とした疾患遺伝子の解明が進んでいる。 腎生検でIgA腎症と確定診断された症例が4名存在する1家系(11名の末梢血からDNAを抽出)を対象とした。ゲノムワイドSNPアレイによりSNPタイピングを行い、SNP HitLinkを用いて全ゲノム領域の連鎖解析を行った。パラメトリック解析では、LODスコア>1.0を示す複数の領域が検出された。エクソーム解析はIgA腎症4名を含む8名を対象とした。ゲノムから全エクソン領域を濃縮し、次世代シーケンサーを用いて全エクソン領域の塩基配列を決定した。得られた配列情報からフィルタリングを行い、IgA腎症の発症に関連する約50のvariantを選別した。さらに連鎖解析での高LOD領域や、疾患遺伝子検索プログラムを用いて候補遺伝子を絞り込んだ。得られた候補遺伝子について、他の家系の症例においても変異が存在するか検討を進めている。 遺伝学的アプローチから家族性IgA腎症の発症に関わる効果サイズの大きいリスク遺伝子が同定され、IgA腎症の発症メカニズムの解明につながると期待される。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
腎生検でIgA腎症と確定診断された症例が4名存在する1家系(11名の末梢血からDNAを抽出)を対象とした。Affymetrix Human Genome-Wide SNP Array 6.0によりSNPタイピングを行い、全ゲノム領域の連鎖解析を行った。エクソーム解析はIgA腎症4名を含む8名を対象とした。SureSelectによりゲノムから全エクソン領域を濃縮し、次世代シーケンサ Genome Analyzer GAIIx (illumina) を用いて全エクソン領域の塩基配列を決定した。得られた配列情報からフィルタリング(観察されたアレル頻度が0.4~0.6、dbSNP132に含まれない、1000genomes での頻度が1%以下、アミノ酸が非同義置換となる)を行い、IgA腎症の発症に関連する可能性が高いvariantを選別した。全ゲノム連鎖解析では、パラメトリック解析でLODスコア>1.0を示す9領域が検出された。全エクソンの配列情報からフィルタリングを行い、49個のvariantが選別された。さらに連鎖解析での高LOD領域や、疾患遺伝子検索プログラム(VAAST)を用いて候補遺伝子を絞り込んだ。得られた候補遺伝子について、他の家系の症例においても変異が存在するか検討を進めている。また既に機能が推定されている2個の粘膜免疫に関連する遺伝子に着目している。これらについては、培養細胞における発現系を作成した。次年度以降、その遺伝子変異による機能への影響を検討する。
|
今後の研究の推進方策 |
家族性IgA腎症を対象とした連鎖解析からいくつかの候補遺伝子座(2q36、4q26-31、6q22-23、17q12-22)が報告されているが、責任遺伝子は未だ同定されていない。家族性IgA腎症には遺伝的異質性が指摘されており、複数の疾患感受性遺伝子が存在することが示唆されている。近年、全ゲノム関連解析によりIgA腎症の関連遺伝子としてHLA領域を含めたいくつかの遺伝子が報告されているが、家族性IgA腎症に関わる遺伝子のリスクはさらに大きいと思われる。エクソーム解析では機能的に重要である全エクソン配列から疾患遺伝子の特定を可能にする。家族性IgA腎症においても疾患遺伝子が同定され、IgA腎症の疾患パスウェイが解明されることが期待される。今年度までに得られた得られた候補遺伝子について、他の家系の症例においても変異が存在するか検討を進めている。既に申請者らのグループでは28家系のIgA腎症を収集している。 また既に機能が推定されている2個の粘膜免疫に関連する遺伝子については、培養細胞における発現系を作成した。次年度以降、その遺伝子変異による機能への影響を検討する。
|
次年度の研究費の使用計画 |
本研究課題では、他の家系についてもゲノム解析、次世代シークエンサによる解析を継続する必要はあるが、その実質的な費用は、本研究課題の研究費予算を超える。したがって、本研究課題を獲得したことににより応募可能となる特定領域研究ゲノム研究支援に申請している。これをもって、さらなる家系の解析と全ゲノムシークエンスをさらに進める予定である。 培養実験等で必要となる研究設備はすでに申請者のグループ内で現有しているため、新たな機器の購入は不要である。研究費の主な部分は、培養細胞系での発現実験、試験管やフラスコ等の消耗品の購入に充てる。現在までの研究成果を公表するための英文校正費、印刷費を計上する。また、他の研究者との情報交換のため、アメリカ腎臓学会での発表を予定しているので、その旅費も計上する。
|