研究課題
副甲状腺におけるαクロトーの作用点は、FGF23受容体としてPTHの転写抑制に働いているポイントと、Naポンプのリクルート制御を介してPTHの応答性分泌に促進的に関与しているポイントの2カ所である。腎不全透析患者では正常人に比しFGF23が二桁以上高い血中濃度になっているにも関わらず、二次性副甲状腺機能亢進症に陥るケースが多いことから、αクロトーがFGF23受容体としてPTH転写抑制に与える影響は支配的ではないことが考察される。従って、αクロトーのもう一つの作用点、すなわち、Naポンプのリクルート制御を介してPTH分泌に促進的に関与するメカニズムに対し、エストロングルクロン酸(EG)が阻害的に作用すると推論できる。 本研究では、EGがαクロトーとNaポンプの分子結合に干渉しているという仮説に焦点を当てて検証した。具体的には、培養細胞に発現させた場合、EGFP融合Naポンプとαクロトーが免疫沈降ウエスタンで結合を証明できる実験系を樹立した。免疫沈降により分子結合の程度を定量化でき、この系にEGを添加する事で分子結合を阻害できる事を確認した。また、クロトー分子の立体構造予測から相手分子に付与された糖鎖末端の硫酸化グルクロン酸1分子で糖認識ポケットを埋められる事が推定された。このような糖構造を認識する抗体M6479でNaポンプを解析したところ、Naポンプベータサブユニットにが一応構造が発見され、クロトー分子がこの構造を認識標的にしている事が強く示唆された。すなわち、EGの分子作用点がクロトーとNaポンプベータサブユニットの糖認識に基づく結合を競合阻害する寄稿である事が推定された。
2: おおむね順調に進展している
αクロトーの構造解析を通して、αクロトーがグルクロン酸を認識する能力を持つことを見いだし、αクロトーの分子結合能を阻害する化合物エストロングルクロン酸(EG)を樹立した。生体では、αクロトー分子はNa,K-ATPase(Naポンプ)への結合を介して細胞内リクルートに関与し、副甲状腺においてPTHの応答性分泌を制御している。そこでマウス個体にEGを投与したところ、低カルシウムに応答するPTH分泌を抑制することが判った。近年、PTH抑制薬としてCa受容体(CaR)に対するアゴニストであるシナカルセトが実用化されているが、今後、EGの薬理学的検証を通して、新規薬剤の開発が期待される。本研究は、αクロトー依存性PTH分泌機構におけるエストロングルクロン酸の作用メカニズムを解明し、薬剤作動原理の基礎データを取得することが目的である。このうち、エストロングルクロン酸の作動原理については、初年度でほぼ明らかに出来たと考えている。予想以上の収穫としては、実際にαクロトー分子が認識する最も好適な構造は3位硫酸基に修飾を受けたエストロングルクロン酸であることが想定できた事である。従来、予備的実験ではエストロングルクロン酸は安価な市販品があり利便性は高いものの、先行のシナカルセトに対濃度効果において劣るという問題点を認識していた。この点で、硫酸基の修飾を実現できれば、問題を解決できる可能性がある。従って、当該試薬の合成を同時に実施しつつ、次年度の課題である動物への投与を含む薬理効果の検証のステップに進みたい。
現在までの研究により、EGの作用点がほぼ確定できたと考えている。EGはPTHの急速応答性分泌において、クロトー/Naポンプ系の作動を抑制する事により、Naポンプ膜表面リクルートを抑制するのではないかと考えられた。しかし他の作用点の有無の検証も必須である。クロトー/Naポンプ系のみならず、クロトー/FGF23系にも、EGは干渉する可能性があるからである。従って、FGF23由来で生じるPTH転写抑制がEG投与により影響を受けるかどうか、またPTHの長期的な蓄積量を測定する必要がある。本研究の眼目は、「生体の副甲状腺で、EGがどのように、どの程度効くのか?」を評価することにある。そのためには、野生型マウスに加えて、副甲状腺機能亢進症モデルとしてのVDR-KOマウスをモデルとして用いる。PTH抑制薬の陽性コントロールをシナカルセトとして、EGを種々の用量で投与した後副甲状腺を摘出し、PTHの遺伝子転写の程度をqPCRにて定量すると同時に、組織抽出液を用いてELISA測定し、PTH貯蔵量を算出する。これにより、慢性的EG投与によって、PTHがどの程度影響をうけるのかを記載する。EGはFGF23とαクロトーの結合を阻害するので、狙いと反対にEG投与によってPTH産生量が増加する可能性があるが、実際にはどのような効果が得られるか、検討する必要がある。また、これまでの解析によりグルクロン酸の3位硫酸化化合物がクロトー活性の阻害物として有望であるので、この化学合成を実施する計画である。この合成については市販品が存在せず、保護基の検討が必要であるので、東京化成に委託する方針である。
マウス飼育費、化合物委託合成費に主要な経費を予定している。また、マウス副甲状腺を摘出する技術を確立したので、これを用いてPTH qPCRで遺伝子発現を定量評価する事が可能になった。TaqMANプローブの購入費にも予算を充てたいと考えている。
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