【背景・目的】Elovl6は炭素数12~16の飽和・一価不飽和脂肪酸を基質とする脂肪酸伸長酵素である。Elovl6KOマウスは、食餌性および遺伝性の肥満を呈するにも関わらずインスリン抵抗性が改善されることから、本酵素が生活習慣病の新規治療標的として期待される。そこで本研究では、2型糖尿病モデルdb/dbマウスとElovl6KOマウスの交配動物の作製と解析を行い、2型糖尿病の発症・進展におけるElovl6の意義を明らかにすることを目的とした。 【方法】db/dbマウスとElovl6KOマウスを交配してdb/db-Elovl6KOマウスを作製し、体組成、血中パラメーターの測定、インスリン負荷試験、経口糖負荷試験、膵臓ランゲルハンス氏島(ラ氏島)の組織学的解析、脂肪酸組成解析、インスリン分泌試験、遺伝子発現解析を行い、膵β細胞の性状・機能とElovl6との関わりを比較・検討した。 【結果】db/db-Elovl6KOマウスはdb/dbマウスと同様に肥満・インスリン抵抗性を呈したが、高血糖および耐糖能の改善が認められた。db/dbマウスに比べてdb/db-Elovl6KOマウスではラ氏島の肥大とインスリン分泌の増強に伴う血中インスリン値の上昇が認められた。db/db-Elovl6KOマウスのラ氏島では、db/dbマウスに比べてオレイン酸(C18:1n-9)が著明に減少し, TNFαやMCP-1といった炎症性サイトカインやケモカインの遺伝子発現の減少と膵β細胞機能に重要なPDX-1やMafA、Insulinの遺伝子発現の増加が認められた。 【結論】本研究の結果から、Elovl6は2型糖尿病における膵細胞量の減少や機能不全に関与することが明らかとなった。膵β細胞の脂肪酸組成の変化は2型糖尿病の発症リスクと考えられ、Elovl6の阻害が新しい糖尿病治療標的として期待される。
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