研究課題
我々はこれまでに遺伝子トラップ技術の改良を続け、脂肪細胞分化に必須の遺伝子の検索を行ってきた。癌細胞を含む哺乳類の細胞は2倍体以上であることから、対立遺伝子の1つが無い状態で形質変化を示すような遺伝子しか得ることができないという欠点があった。ヒトの1倍体の細胞を用いて、従来の遺伝子トラップ法の欠点を克服するシステムを立ち上げた。P1-55細胞はヒト白血病由来であるが、8番染色体以外は、1倍体であることが知られている。8週間以上、1倍体で安定して増殖すること、miR-33を発現していること、レトロウイルス、レンチウイルス導入も問題なく行えることを確認した。この細胞は通常の培養方法によって約12-30時間の倍加時間で増殖する。遺伝子トラップにおいては、挿入変異が安定であること、さらに培養中に2倍体に戻らないことが大事であるため、この細胞の安定性について、まず検討を行った。フローサイトメトリー(FCM)法により、細胞周期解析を行う。細胞の膜透過性の確保後、RNase処理を行い、PI染色を行って、FCMで測定したところ、8週間培養を繰り返した場合でもhaploidを維持できることを確認した。GFPを用いたmiR-33デコイ遺伝子(GFP-miR-33 decoy)を恒常的に発現させ、内因性のmiR-33の発現をGFPでモニターできるシステムを作成し、遺伝子トラップ法を応用した。その結果、複数の遺伝子が挿入変位を受けた際に、GFP発現が上昇することを見出した。得られた候補遺伝子中のdownstream of tyrosine kinases-1 (Dok1)遺伝子のRNAiを作成し、細胞に導入したところ、miR-33発現が減少し、当システムが予想通りに遺伝子をスクリーニングする能力があることが確認できた。今後、Dok1遺伝子を含む複数の候補遺伝子について、さらに解析を進める。
2: おおむね順調に進展している
我々はこれまでに、ランダムな遺伝子挿入をもとに機能的な遺伝子を探索する「遺伝子トラップ技術」の改良を続けてきた。しかしながら、癌細胞をはじめとする哺乳類の細胞は2倍体 (diploid)以上であることから、対立遺伝子の1つが無い状態で形質変化を示す遺伝子しか得ることはできなかった。そこで今回ヒトの1倍体 (haploid) 細胞株であるP1-55細胞を用いることで、従来の欠点を克服した、非常に感度の高い網羅的な遺伝子の探索法を開発することを目標としている。特に、HDLコレステロールレベルを制御するmicroRNA (miR)-33の発現変化を起こす因子を得ることを目的とする。平成23年度に予定していた1)haploid cellの安定性の検討 2)恒常的にレポーター遺伝子を発現させたP1-55細胞の作成と遺伝子トラップ法の応用については、当初の計画通りに進行した。8週間培養を繰り返した場合でもhaploidを安定的に維持できることを確認した。GFPを用いたmiR-33デコイ遺伝子(GFP-miR-33 decoy)を恒常的に発現させ、内因性のmiR-33の発現をGFPでモニターできるシステムを作成した。遺伝子トラップ法を応用したところ、複数の遺伝子が挿入変位を受けた際に、GFP発現が上昇することを見出した。得られた候補遺伝子中のdownstream of tyrosine kinases-1 (Dok1)遺伝子のRNAiを作成し、細胞に導入したところ、miR-33発現が減少し、当システムが予想通りに遺伝子をスクリーニングする能力があることが確認できた。
ヒトの1倍体の細胞を用いて、従来の遺伝子トラップ法の欠点を克服するシステムを立ち上げた。平成23年度の検討により、この方法は、従来の2倍体を用いた方法に比べて、感度が良いことを示すことができた。さらに同様のスクリーニングを行い、より多くの候補遺伝子を早期にスクリーニングする。実際に生体でどのような働きを持つのかを明らかにするために、候補遺伝子の中で、特に有望と考えられる遺伝子については遺伝子欠損マウスの作成に進む。これらの遺伝子変異マウスにおいてはmiR-33欠損マウスに似た表現型を呈する可能性があると考えられる。そこでHPLC法などを応用し、血中脂質のプロファイル解析を行う。この解析において、抗動脈硬化性を示すようであれば、さらに動脈硬化モデルマウスとの交配実験も予定する。また、miR-33と特異的に結合する蛋白質が得られる可能性があるが、より直接的な方法においても、データを集積する。ヒトの細胞(HEK-293およびTHP-1マクロファージ)にControl-microRNAあるいはmiR-33を過剰に発現させ、抗Argonaute2 (Ago2)抗体で同時に免疫沈降してくるRNA-蛋白質(RNP)複合体に含まれる蛋白質をLC-MS/MS法にて解析する。同時に、in vivoでのmiR-33の標的遺伝子を明らかにする目的で、miR-33欠損マウスと野生型のマウスにおいて、抗Argonaute2 (Ago2)抗体で同時に免疫沈降してくる遺伝子についてもマイクロアレイを用いて検討する。
これまでの研究において、ヒトの1倍体の細胞を用いて、従来の遺伝子トラップ法の欠点を克服するシステムを立ち上げた。平成23年度の検討により、この方法は、従来の2倍体を用いた方法に比べて、感度が良いことを示すことができた。さらに同様のスクリーニングを行い、より多くの候補遺伝子を早期にスクリーニングするために、細胞培養に必要な試薬、血清および分子生物学試薬の購入を行う。得られた遺伝子が、実際に生体でどのような働きを持つのかを明らかにするために、候補遺伝子の中で、特に有望と考えられる遺伝子については遺伝子欠損マウスの作成に進む。ターゲッティングベクターの作成に必要な試薬およびES細胞の培養に必要な試薬を購入する。キメラマウスの作成については外注予定である。また、すでに遺伝子改変マウスが作出されている場合にはこれを導入する。クリーン化が必要な場合は、京都大学動物実験施設にて行う。これらの遺伝子変異マウスにおいてはmiR-33欠損マウスに似た表現型を呈する可能性があると考えられる。血中脂質のプロファイル解析は外注を予定している。この解析において、抗動脈硬化性を示すようであれば、さらに動脈硬化モデルマウスとの交配実験も予定する。また、miR-33と特異的に結合する蛋白質の同定については、必要な抗体などの試薬を購入する。LC-MS/MS法での解析は外注予定である。in vivoでのmiR-33の標的遺伝子について、必要な抗体などの試薬を購入する。また、マイクロアレイは外注で行う予定である。
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