研究課題/領域番号 |
23659481
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研究機関 | (財)東京都医学総合研究所 |
研究代表者 |
原 孝彦 (財)東京都医学総合研究所, 生体分子先端研究分野, 副参事研究員 (80280949)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | CXCL14 / 粘膜組織 / 摂食行動 / ケモカイン |
研究概要 |
当初の実験計画に従って、CXCL14-KOマウスと対照正常マウスとから、CXCL14を多量に発現している代表的な組織として小腸・内蔵脂肪組織・脳を選び、それぞれ有機溶媒で抽出した後、低分子メタボローム解析に供した。その結果、前者において不飽和脂肪酸分画の減少傾向が認められた。さらに内蔵脂肪組織のマイクロアレイ解析においては、脂肪代謝を制御する転写調節因子のmRNA発現レベルが、CXCL14-KOマウスにおいて顕著に低下していることを見出した。現在、サンプルマウスの匹数を増やして、本実験結果の再現性を確かめているところである。 次に、CXCL14に結合してその活性を高める物質の探索研究については、マウスの組織からのアフィニティー精製を試みているが、まだ同定に至っていない。CXCL14活性化物質の同定には、まずCXCL14受容体の構成分子とリガンドとの結合親和性を解明することが優先事項と考え、残りの時間を受容体の解析に費やした。CXCL14応答性のTHP-1細胞株を用いた一連のノックダウン実験とcDNA rescue実験の結果から、CXCL14受容体が機能するためには、CXCR4と機能未知のGPCRであるLPHN2の両者が必須であることを見出した。125Iで標識したCXCL14は、CXCR4に高親和性で結合し、LPHN2の7回膜貫通ドメインに対しても弱いながら特異的に結合した。次に、Cxcr4またはLphn2遺伝子欠損マウス由来の未成熟樹状細胞様細胞では、CXCL14に対する走化性とCXCL14刺激後のMAPキナーゼリン酸化が有意に減弱していた。LPHN2は、CXCL14と同様に、肺・子宮・味蕾などの粘膜系組織に強く発現していた。以上の結果により、機能的なCXCL14受容体には、CXCR4とLPHN2の両者が使われていると結論した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでCXCL14受容体の構成分子は同定されておらず、CXCL14の生理的役割の全貌解明を阻む大きな壁であった。本研究によって、CXCL14がCXCL12受容体であるCXCR4に結合し、さらに別のGPCRとも相互作用することが証明された。並行して行っている別の研究からは、CXCL14がそのC末端を介してCXCL12の活性をほぼ完全に阻害することも判明した。すなわち、CXCL14はCXCL12の天然アンタゴニストとしてCXCR4シグナルの強弱を微調整する役割を果たす。これらの新発見は、ケモカイン生物学の発展だけでなく、CXCL12/CXCR4が主軸として働く癌や免疫疾患の治療法を創出していく上でも大きな意義を持つ。
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今後の研究の推進方策 |
CXCL14が行動刺激センサーとして働くという仮説は、CXCL14-KOマウスが摂食行動や新しい環境への適応が遅いという実験事実に基づいて立てたものである。最近、米国の研究者は、CXCL14は海馬歯状回におけるGABAの働きを抑制し、CXCL12は逆にGABA信号を増強することを報告した。この現象は、CXCL14がCXCL12の天然アンタゴニストであることで容易に説明できる。2年目の研究においては、海馬や視床下部といった摂食行動に関わる中枢神経核において、CXCL12とCXCL14、そしてそれらの受容体であるCXCR4とLPHN2がどのような発現分布をしているのかを、生誕後からの時系列に沿って正確にマップすることが必須と思われる。この実験を今後の研究計画として追加する。一方、小腸や肺などの末梢粘膜組織におけるCXCL14の役割や活性化機構は、未だ未解明のままである。当初計画したCXCL14結合物質の探索研究に加えて、CXCL14-KOマウスの粘膜免疫系が正常に作動しているかどうかについても慎重に検討していく計画である。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度の研究費は、主に以下の実験を実施するためのマウス、各種の試薬・抗体、およびディスポ器具を購入するのにあてる。消耗品の購入に加えて、本研究費を使って、研究成果の学会発表と論文投稿を実施する計画である。・CXCL14-KOマウスの小腸や脂肪組織での含有量が有意に減少していた脂質と転写制御因子に焦点を充て、関連する脂質代謝経路に関わる酵素や中間産物の量を比較解析する。・特異抗体を用いて、マウスの脂肪組織や脳に存在するCXCL14をアフィニティー精製する。このとき共沈してくる物質があるかどうか、質量分析にて解析する。さらに、それらがCXCL14の活性を高めるかどうか、THP-1細胞を用いた走化性試験により判定する。また、それらがCXCL14と直接結合するかどうか、ELISAや125I-標識CXCL14を用いたBinding assayにより解析する。・CXCL14-KOマウス、および野生型C57BL/6マウスからパラフィン切片を作製し、上記のCXCL14活性化物質の組織内分布と存在量とを免疫蛍光染色によって比較検討する。・マウスの海馬や視床下部の発達過程において、CXCL12・CXCL14・CXCR4・LPHN2がどのような発現分布をしているのかを、レポーターノックインマウスの免疫染色、あるいはin situ hybridization法によって明らかにする。
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