研究課題
1.骨髄異形成症候群(MDS)および骨髄浸潤陰性の悪性リンパ腫(コントロール)骨髄生検検体を用いた、Nestin陽性細胞の解剖学的解析:筑波大学附属病院病理部で保存されている、MDSおよび骨髄浸潤陰性悪性リンパ腫の骨髄生検検体について、NestinとCD34、CD31、あるいはCD146などとの免疫共染色を行った。この結果、骨髄浸潤陰性悪性リンパ腫患者の骨髄では、内骨膜表面および血管壁構造内に、紡錘形のNestin陽性細胞が同定された。特に血管壁では、血管内皮細胞とは別な細胞であり、血管内皮細胞とともに血管壁を構成する構造が明瞭に認められた。一方、MDS患者では、このようなNestin陽性細胞を含む血管壁構造が破壊されており、Nestin陽性細胞が血管壁から遊離して存在している様子が観察された。2.Nestin発現細胞でGFPを発現するレポーターマウスの作製とGFP陽性細胞の観察:Cre依存性にGFPを発現するZEGマウスと、Nestinプロモーター下でCreを発現するNestin-Creマウスを交配し、Nestin-Cre/ZEGマウスを作製した。このマウスの骨髄におけるGFP発現細胞を観察したところ、骨髄浸潤陰性悪性リンパ腫患者骨髄で観察したNestin陽性細胞とほぼ同様に、血管内皮と接し血管壁を構成する紡錘形細胞としてNestin陽性細胞が同定された。3.Nestin-Cre/RBP-Jκflox/floxマウスの作製: Nestin-CreマウスとRBP-Jκflox/floxマウスを交配し、Nestin-Cre/RBP-Jκflox/floxマウスを作製した。このマウスを用いて、骨髄のNestin陽性細胞でNotchシグナルを欠失した際に、造血にどのような影響が及ぶかを今後検討する。
2: おおむね順調に進展している
1.骨髄異形成症候群(MDS)および骨髄浸潤陰性の悪性リンパ腫(コントロール)骨髄生検検体を用いた、Nestin陽性細胞の解剖学的解析を計画し、ほぼ計画通りに目的を達成できた。すなわち、正常人骨髄において、Nestin陽性細胞が血管内皮細胞とともに血管壁を構成する構造を同定した。一方、MDS患者では、このようなNestin陽性細胞を含む血管壁構造が破壊されていることを見いだした。これらの観察結果は、正常造血における支持細胞の役割の解明とともに、MDSの病態解明に貢献することが期待されるものと評価できる。2.Nestin発現細胞でGFPを発現するレポーターマウスの作製し、このマウスの骨髄におけるGFP発現細胞の解剖学的所見を観察し得た。すなわち、正常人骨髄で観察した所見と同様の解剖学的構造を、マウス骨髄でも観察した。このことは、造血支持細胞としてのNestin陽性細胞が重要性であることについて、信頼性がより高くなったと言える成果である。3.Nestin-Cre/RBP-Jκflox/floxマウスを作製し、骨髄のNestin陽性細胞でNotchシグナルを欠失した際に、造血にどのような影響が及ぶかを検討する準備が整った。これは、最終的な目的であるNestin陽性造血支持細胞の役割を解明する上で重要な到達地点であり、現時点では目的を達成していると評価できる。
1.正常人骨髄におけるNestin陽性細胞について、その特徴をさらに解析する。また、観察するMDS患者骨髄のサンプル数を増やし、病態と骨髄Nestin陽性造血支持細胞の異常についての解析を進める。2.Nestinプロモーター下でCre-ERを発現するマウスとZEGマウスを交配し、タモキシフェン誘導性にNestin発現細胞でGFPを発現する、新たなレポーターマウスを作製して、このシステムによりCre-ERが機能する細胞について評価を行なう。3.すでに作製し骨髄を観察しているNestin-Cre/RBP-Jκflox/floxマウスは周産期に死亡するため、成体マウス骨髄のNestin陽性細胞におけるNotchシグナルの機能について評価することができない。そこで、Nestinプロモーター下でCre-ERを発現するマウスとRBP-Jκflox/floxマウスを交配し、タモキシフェン誘導性にNestin発現細胞でRBP-Jκflox/floxを欠損するマウスを作製する。これにより、成体マウス骨髄でのNestin陽性細胞において、Notchシグナルが造血に果たす役割について検討を加える。
次年度は100万円の直接経費を使用する計画であるが、このうち、マウスの購入、細胞培養に必要な消耗品や、免疫染色に必要な抗体の購入など、物品費に約80万円を当てることを計画している。この他は、近距離の国内旅費の他、マウスの維持管理などのためその他として計上する。
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