同種造血幹細胞移植は造血器悪性腫瘍の根治的治療法であるが,その成績向上には、移植片対宿主病(GVHD)と感染症の克服が課題である。とくにGVHDの直接死因として、GVHDで破綻した腸管粘膜を侵入門戸とする病原性菌による敗血症が最も頻度が高い。申請者は一貫してGVHDのメカニズムの研究を行いその病態の解明に貢献してきた。とくに腸管傷害とGVHDにフォーカスして研究を行ってきたが、健常人の腸内細菌フローラの大部分は“共生菌”であり、病原性菌はごく一部を占めるに過ぎないのに、なぜGVHD患者で、病原菌が猛威を振るうのか明らかにされていなかった。われわれは腸幹細胞とそのニッチであるPaneth細胞がGVHDの標的であることを世界で初めて明らかにし、GVHDとは生体のホメオスタシスと修復機転の破綻による免疫病であることを証明した。またGVHDによるPaneth細胞ダメージによって、defensinなど内因性抗菌ペプチドの産生が低下し、GVHD群では、移植後7日目には腸内細菌叢の多様性が消失し、常在菌から病原菌への菌交代現象がみられた。優勢菌が破綻した粘膜バリアより侵入し感染症の起因菌となった。このような腸内細菌叢の変化は、臨床的なGVHDの重症度と相関した。非吸収性抗生剤の投与によって、腸内細菌叢の是正により、GVHDの軽減も観察され、以上の結果から、造血幹細胞移植後の新たな菌交代メカニズムが明らかとなり、造血幹細胞移植後の2大合併症であるGVHDと感染症の間に従来認識されていなかったクロストークが存在することが示唆された。
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