研究概要 |
血友病Aの新規治療戦略として、患者由来iPS細胞に正常第VIII因子遺伝子を組み込ませた後、肝細胞に分化させ患者に移植することが考えられる。導入遺伝子がランダムに組み込まれることによる挿入変異発癌を極力抑えることが、増殖の旺盛なiPS細胞の遺伝子操作には求められる。病原性のない野生型アデノ随伴ウイルス(adeno-associated virus: AAV)が第19番染色体のAAVS1領域に特異的に組み込まれる性質に着目し、同領域に外来遺伝子を効率良く組み込ませる方法をiPS細胞で確立することを目指した。昨年度はモデル実験を行う準備としてヒトAAVS1領域を持つトランスジェニックマウスを作出し、皮膚線維芽細胞を分離した。またAAVS1特異的組込みに必須の配列の解析を進め、AAVのRep蛋白質の発現を制御するp5プロモーター内の配列が導入遺伝子のAAVS1への組込みの向きを規定できることが分かった。 本年度は分離培養した皮膚線維芽細胞にOct3/4, Sox2, Klf4, c-Mycを発現するリプログラミング用センダイウイルスベクターを感染させ、iPS細胞の樹立した(nanog、SSEA-1に対する免疫蛍光抗体染色、及びアルカリホスファターゼ染色でいずれも陽性)。次にiPS細胞にRep発現プラスミドとp5プロモーター配列を搭載したGFP発現プラスミドをトランスフェクションし、ヒトAAVS1領域へのGFP遺伝子の組込み頻度を調べたところ、約100クローンの解析で1クローンがAAVS1領域に組み込まれていることが分かった。これまでの我々の研究によるとヒト由来の細胞株HEK293細胞、HeLa細胞でのAAVS1特異的組込み頻度は約10%程度であるので、マウスiPS細胞では極めて低いことになる。プラスミドのデザイン、トランスフェクション法などの最適化が必要と考えられた。
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