研究課題/領域番号 |
23659494
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研究機関 | 独立行政法人国立循環器病研究センター |
研究代表者 |
宮田 敏行 独立行政法人国立循環器病研究センター, 分子病態部, 部長 (90183970)
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研究分担者 |
坂野 史明 独立行政法人国立循環器病研究センター, 分子病態部, 研究員 (00373514)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 血栓性血小板減少性紫斑病 / ADAMTS13 / 抗血栓因子 / 肝星細胞 / トランスジェニックマウス / トランスクリプトーム解析 / Bac-TRAP / バイオイメージング |
研究概要 |
本研究では、ロックフェラー大学のHeintz教授らが開発したBac-TRAP法(Cell, 2008)を用いて、肝星細胞を蛍光標識し、かつ細胞内で翻訳中のmRNAのトランスクリプトーム解析を行う。Bac-TRAP法は、Bacterial artificial chromosome(Bac)を使ったトランスジェニックマウス作製の手法を用いて、EGFPで標識されたリボソームタンパク質L10aを細胞特異的に発現させ、その細胞で翻訳中のmRNAを抗GFP抗体を用い回収し、トランスクリプトーム解析(Translating ribosome affinity purification, TRAP)を行うというものである。私達は、この手法を肝星細胞に応用し、肝星細胞の研究および抗血栓因子ADAMTS13の研究を進める。私達が研究している抗血栓因子ADAMTS13は肝星細胞に特異的に発現する。この性質を用いて、EGFP-L10a融合タンパク質を肝星細胞に発現させて細胞を蛍光で可視化し、肝星細胞で翻訳中のmRNAを回収しトランスクリプトーム解析を行う。このため、研究の1年目にADAMTS13遺伝子のプロモーターの下流に蛍光タンパク質EGFPとリボソームタンパク質L10aの融合タンパク質EGFP-L10aをコードするcDNAを組み入れたBacベクターを構築し、Adamts13-Bac-TRAPトランスジェニックマウスを作製する。2年目にBac-TRAPマウスを用いたADAMTS13産生細胞の確認と発現モニター法の確立、およびポリソーム免疫沈降による翻訳遺伝子プロファイリングを行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Heintz教授からEGFP-L10a融合タンパク質をコードするcDNAが挿入された組換えベクター(S296.EGFP-L10a)と組換え酵素RecA発現ベクター(pSV1-RecA)を恵与された。マウスAdamts13遺伝子を含むBacを持つ大腸菌を購入した(ダナファーム社、クローン名:bMQ-108g14)。Bacインサート両端とAdamts13遺伝子の塩基配列を確認し、Adamts13遺伝子の開始コドン直前の552 bpをPCRで増幅後、組換えベクターのEGFP-L10a配列の直前に挿入し、組換えベクター(S296.Adamts13-EGFP-L10a)を作製した。次いで、Bac含有大腸菌にRecA発現ベクターをCaCl2法で導入し、この大腸菌に組換えベクターをエレクトロポレーション法で導入した。PCR法およびサザンブロット法により、マウスAdamts13遺伝子の開始コドン直下にEGFP-L10a配列が挿入されたBac(Adamts13-BacTRAP)をもつ大腸菌をスクリーニングし、Bac DNAを精製した。次いで、このBac DNAを前核期受精卵に注入し、合計754個の受精卵をレシピエントマウスに移植した。誕生したファウンダーマウスの中から、Bac DNAが挿入された個体をPCR法にて選別した。Bac DNAの継代が確認できたF1マウスを用いてサザンブロット解析を行い、挿入されたBac DNAのコピー数を算定した。以上の結果、6ラインのAdamts13-Bac-TRAPトランスジェニックマウスの作製に成功した。マウスに挿入されたEGFP-L10aのコピー数は、1コピーが3ライン、2コピーが2ライン、8コピーが1ラインであった。本年度は、Adamts13-Bac-TRAPトランスジェニックマウスの作製を目標としており、計画通りの目標を達成することができた。
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度に得られた結果を基にして、Bac-TRAPマウスを用いたADAMTS13産生細胞の確認と発現モニター法を確立する。まず、Adamts13-Bac-TRAPマウスの利点を活かし、胎児ホールマウント、成体各組織切片、血液スメアのEGFP蛍光観察により、ADAMTS13産生細胞を特定する。次に、深部組織を観察可能な2光子励起共焦点顕微鏡を用いて、肝組織中の星細胞とそのADAMTS13発現量の変化をin vivoでライブイメージングする観察系の確立を試みる。次いで、ポリソーム免疫沈降による翻訳遺伝子プロファイリングを行い、肝星細胞の翻訳遺伝子を網羅的に解析する。最後に、Bac-TRAPマウスにジメチルニトロサミンを投与して肝硬変を誘発し、病状の変化と星細胞でのADAMTS13発現変化との関連性をin vivoライブイメージングにより解析する。血漿ADAMTS13活性の迅速測定系を確立しているため、星細胞内でのADAMTS13発現量と血中での活性との関連も併せて解析する。さらに、肝組織ライセートのポリソーム免疫沈降により、星細胞内の翻訳遺伝子プロファイリングを行い、肝硬変症状の増悪および治癒過程における産生蛋白質の変化を解析する。最終的に、得られた結果を取りまとめ、成果の発表を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
私達は1年目の研究で、6ラインのAdamts13-Bac-TRAPトランスジェニックマウスの作製に成功した。これらのラインを維持する必要があり、マウスの維持と管理に研究費を支出する。Adamts13-Bac-TRAPトランスジェニックマウスでのEGFP(即ちADAMTS13)の発現を解析するため、胎児ホールマウントと成体各組織切片のEGFP蛍光観察を行い、ADAMTS13産生細胞を特定する。次いで、EGFP(即ちADAMTS13)発現がみられた細胞(組織)については、抗GFP抗体を用いた免疫染色を行う予定である。蛍光観察などの実験に必要な消耗品を購入する。組織染色は専門の業者に外注する予定である。肝星細胞(および新たに同定したADAMTS13強発現細胞)を含む組織のライセートを調製し、抗GFP抗体を用いた免疫沈降により、EGFP-L10a含有リボソームと翻訳中のmRNAを含むポリソームを回収する。回収したポリソームからmRNAを精製し、GeneChipシステム(アフィメトリクス社、設置済み)を用いて肝星細胞内の翻訳遺伝子を網羅的に解析する。さらに、TaqManシステムを用いた定量PCRによりGeneChip解析の結果を検証する。こういった実験に必要な消耗品を購入する。マウスの維持管理に実験補助者を必要とする。情報収集・研究結果の発表のため、国内学会の旅費を支出する。
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