研究課題/領域番号 |
23659502
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研究機関 | 聖マリアンナ医科大学 |
研究代表者 |
八木下 尚子 聖マリアンナ医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (40367389)
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キーワード | 関節リウマチ / 滑膜細胞 / シノビオリン / 小胞体関連分解 / 線維化 / 阻害剤 |
研究概要 |
関節リウマチは慢性炎症、滑膜細胞の過剰増殖、骨・軟骨破壊、線維化などの多段階の病的プロセスが相互作用し、時空間的に多様な病態を呈しながら進行する疾患である。我々は、滑膜細胞の過剰増殖に着目して研究を進め、関節リウマチの発症分子となるE3ユビキチン化酵素シノビオリンを発見した。また、シノビオリンは小胞体関連分解(ERAD)で機能し、特に可溶型基質(ERAD-LS)の分解を担うことを明らかとした。さらに最近、シノビオリンが肝臓の線維化に重要な役割を示すことを明らかとし、これまで全く異なる病態と考えられていた両疾患に共通の発症機序が存在することを発見した。したがって、シノビオリンを標的とすることで関節リウマチや肝線維症に代表される線維化疾患に対する治療につながる可能性が考えられるため、本研究ではシノビオリンの活性制御による線維化制御の開発を目指すことを目的とした。 約 200 万個の化合物ライブラリーよりシノビオリンの自己ユビキチン化活性を指標としたスクリーニングにより 2 種類の阻害活性を有する化合物が得られた。これらの化合物は HeLa 細胞に比べ、関節リウマチ滑膜細胞の増殖をより強力に抑えることが明らかとなった。さらに、コラーゲン関節炎に対しても関節炎スコアの制御が可能であった。これまでのヘテロ欠損体を用いた研究成果 (J. Biol. Chem. 2005) に加え、新規選択的 E3 ユビキチン化阻害剤を用いることでシノビオリンが関節リウマチの病態・治療に重要な標的分子であることのPOCができた。さらにシノビオリン遺伝子floxマウスを用いた検討においてもシノビオリンが慢性炎症に深く関わることが証明された。これらの発見は単に科学的な重要性を示すのみならず、今後の創薬開発に大きな役割をなすことが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
産前・産後休暇、育児休業取得により一定期間研究を中断したが、おおむね順調である。 シノビオリンの自己ユビキチン化活性を阻害する2種類の化合物が、関節リウマチ滑膜細胞の増殖抑制効果を有すること、また動物レベルにおいてもコラーゲン関節炎の発症抑制効果を有することが証明された。そのため、これら化合物が線維化抑制剤の開発につながることが強く示された。
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今後の研究の推進方策 |
選択的・非選択的ユビキチン化阻害剤が他の線維化モデルマウスの病態発症に対してどのような効果を有するかを検討する。これにより、各阻害剤が線維化制御につながるかを動物レベルで検証する。たとえば、腎線維症モデルは、ネンブタール麻酔下にて開腹し、片側の尿管を縫合糸にて結紮し閉塞させる、肝線維症モデルは10 mL/kg四塩化炭素を週2回、4週間腹腔内投与する、肺線維症モデルは:0.6 mL/kgブレオマイシン100 ・Lを気管内投与する、膵線維症モデルはネンブタール麻酔下にて開腹し、実体顕微鏡下で膵管を縫合糸にて結紮し閉塞させる、などにより各種線維化モデルマウスを作製し、同時に選択的・非選択的ユビキチン化阻害剤を投与することで線維化発症の程度に変化を起こすかを検討する。評価項目としては、体重・血液生化学的検査・組織標本による病理学的解析とする。 またこのとき比較対照としては、syno-/-が胎生致死となるため、組織特異的なシノビオリン遺伝子コンディショナル欠損マウスを用いる。シノビオリン遺伝子floxマウスと標的とする臓器でCreを発現するトランスジェニックマウスを掛け合わせることで、胎生致死を逃れて生存し、標的組織特異的にシノビオリンが発現しないマウスを作製することができ、シノビオリンが発現しない状態での標的臓器における各阻害剤の影響を検討することができる。
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次年度の研究費の使用計画 |
消耗品費については、動物実験使用試薬等、化合物合成費用、プラスチック器具、実験動物購入費(遺伝子改変マウスの繁殖維持に用いる野生型マウスおよび線維化モデルマウスの作成に用いる野生型マウス)に使用する。また、旅費としては、研究に関連する国内外への学会の参加、国内での研究打ち合わせに使用する。その他、事務連絡や試料の受け渡しに必要な切手、電話、宅急便費や、論文別刷り等の印刷費、文献複写費、学会参加費、英文校閲費、論文投稿料等に使用する。
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