研究課題/領域番号 |
23659506
|
研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
冨岡 治明 島根大学, 医学部, 教授 (40034045)
|
研究分担者 |
佐野 千晶 島根大学, 医学部, 准教授 (70325059)
多田納 豊 島根大学, 医学部, 助教 (70432614)
金廣 優一 島根大学, 医学部, 助教 (60609197)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
|
キーワード | 定量的構造活性相関 / 結核菌 / PknG / PtpA / ビルレンス / 3次元QSAR解析法 / 阻害剤 |
研究概要 |
本研究は,種々のPknGおよびPtpA阻害剤について,両酵素に対する阻害活性と結核菌生菌を貪食したマクロファージでのP-L融合抑制活性を定量的に測定し,その活性値をパラメーターとして,3次元定量的構造活性相関(QSAR)解析を行うものである。本年度はpknG,ptpA遺伝子のクローニングを行い,両酵素の組換え蛋白の調整を試みた。まず結核菌DNAを鋳型としてPCR法によりpknGおよびptpA遺伝子を取得した。その際にpknG遺伝子,ptpA遺伝子ともに開始コドンを欠失させた。各々のPCR産物には配列解析により変異が導入されていないことを確認した後,N末GST融合タンパク質発現ベクターであるpGEX-3XのEcoRI制限酵素部位に導入し,N末端GST-tagged PknG,PtpA発現ベクターを作成した。これらのベクターを大腸菌BL-21株に導入し,薬剤選択により得た菌株を大量培養の後,IPTG存在下で 一夜培養しそれぞれの融合蛋白の発現誘導を行った。その後,菌体を超音波破砕し可溶性画分についてGSTカラムを用いて融合蛋白を精製した。精製後の溶出液についてSDS-PAGEおよびimmunoblottingにて目的蛋白質の取得を確認した。次年度は、PknG,PtpAのそれぞれの基質であるGarAやVPS33Bを調整し,PknG,PtpA蛋白のこれらの基質に対するリン酸化活性についてATPの量的変化に基づくルシフェラーゼの発色の変化を指標にした簡易測定系を確立し,さらに,種々のAX20017やstevastelinなどのPknG,PtpA阻害剤の阻害活性アッセイ系を確立する。さらに,これら阻害剤のP-L融合抑制作用を測定し,こうしたデータをベースに,3次元QSAR解析法を用いてのハイスループットなPknG,PtpA阻害剤の検索を行う。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,PknG,PtpA蛋白に対する特異的阻害剤の種々の誘導体について,PknG,PtpAに対する阻害活性,結核菌感染マクロファージでのP-L融合抑制活性を定量的に測定し,その活性値をパラメーターとした QSAR解析を行い統計的回帰式を求め,それをベースとした3次元QSARモデルを用いて,新規抗結核薬のドラッグデザインを試みるものである。この目的を達成するため,本年度はpknG,ptpA遺伝子のクローニングを行い,両酵素の組換え蛋白の調整を試みた。まず結核菌DNAを鋳型としてPCR法によりpknGおよびptpA遺伝子を開始コドンを欠失させた形でを取得した。各々のPCR産物について配列解析を行い,変異が導入されていないことを確認した後,PCR 増幅されたpknG,ptpA遺伝子をN末GST融合タンパク質発現ベクターであるpGEX-3XのEcoRI制限酵素部位に導入し,N末端GST-tagged PknG発現ベクター,およびN末端GST-tagged PtpA発現ベクターを作成した。これらのベクターを常法により大腸菌BL-21株に導入し,薬剤選択により得た菌株を大量培養の後,IPTG存在下で 一夜培養しそれぞれの融合蛋白の発現誘導を行った。その後,菌体を超音波破砕し,遠心後の可溶性画分についてGSTカラムを用いて融合蛋白を精製した。精製後の溶出液についてSDS-PAGEおよびimmunoblottingにて目的蛋白質が確かに取得されていることを確認した。 本年度の研究により,上述の如くPknG, PtpAの二つの酵素の組換え蛋白の精製標品を調整する作業が完了し,次年度からの特異的阻害剤と活性評価実験のための筋道が確立している。従って,「おおむね順調に進展している」と評価できる。
|
今後の研究の推進方策 |
今後の研究推進方策は以下の如くである。すなわち,本年度の検討で得られた組換えPknG, PtpA蛋白を用いて,特異的阻害剤AX20017, stevastelinの種々の誘導体のこれら両酵素二対する阻害活性,およびP-L融合抑制活性を効率良く,かつQSAR解析に利用可能な形で測定できるようなアッセイ系を立ち上げ,PknG, PtpA阻害剤の種々の誘導体の活性を測定する。次いで,このデータをベースにして,これら誘導体の生物活性をパラメーターとした3次元QSAR解析を行い, AX20017, stevastelin,IC3をベースにした新規薬物候補構造の検索・創出を試み,その化学構造を基に合成して得られた候補薬物の結核菌に対する抗菌活性を評価する。具体的には,まずPknG,PtpAの基質であるGarAやVPS33Bを調整し両酵素活性アッセイ系を確立し,次いで,AX20017, stevastelin誘導体の両酵素に対する阻害活性の簡易かつ定量的なアッセイ法,さらに,共焦点レーザースキャン,オルガネラ電気泳動法をベースにしたPknG, PtpA阻害剤のP-L融合抑制活性アッセイ法を確立すべく諸検討を進める予定である。次いで,各種AX20017, stevastelin誘導体の各PknG, PtpA阻害活性,P-L融合抑制活性の評価を行い,十分なデータが蓄積した段階でCoMFA法を用いて,AX20017, stevastelinの種々の誘導体の生物活性をパラメーターとした3次元QSAR解析を開始する。得られたデータを解析し,各誘導体分子のCoMFAフィールドの計算を行い,Partial Least Square法による活性予測式(QSARモデル)の設定を試みる予定である。
|
次年度の研究費の使用計画 |
H23年度は,PknGおよびPtpAタンパクの発現および精製のための試薬類やカラム等に研究費を使用したが,予定よりも安価に試薬の購入ができたため,残額が生じた。また,東日本大震災の影響で,助成金の支給額が全体の70%に減額される可能性があるとの大学からの通知があり,助成金の使用を控えていた事も残額が生じた原因の一つである。 H23年度残額分については,各PknG, PtpAに対する阻害活性の簡易かつ定量的なアッセイ法の確立を特に急ぐ必要があり,これに関する試薬, AX20017, stevastelin誘導体の合成(外注)への使用を予定している。 また,H23年度残額とH24年度助成金の全体の使用計画としては,PknG,PtpAの基質であるGarAやVPS33Bの調整を目的とした,培養細胞や大腸菌の遺伝子組み換えのための試薬やプラスミド,組み換えタンパク質精製のためのカラムや樹脂,抗体やRT-PCR用試薬など種々のタンパク質検出用の試薬を購入する。また,PknGおよびPtpAに対する阻害活性測定系確立のための既存の阻害剤(AX20017およびstevastelinなど)やその誘導体,およびその他の一般的な検出用試薬(蛋白定量試薬,ルシフェラーゼ活性検出試薬など)が必要であり,これらの薬品・試薬類を購入または合成(外注)する予定である。また,供試細胞培養のため牛胎児血清および培地類(RPMI1640,Ham’s F-12K,ハンクス氏液など)や,供試菌の準備・培養に用いる培地の購入,さらに,細胞培養用のdish,結核菌等の供試菌の調製に用いる50mlや5mlチューブおよび解析に用いる1.5mlチューブや96well等のプラスチック器材についても購入を予定している。
|