研究課題
本研究課題では、適切な治療を施さなければ致死的な転帰をもとりうるデング出血熱の発症を事前に予測する方法を確立することを目的とし、病態形成への関与が想定されるいくつかの血漿中生体物質を重症化事前予測バイオマーカーの候補として、ポータブル表面プラズモン共鳴(SPR)測定装置を用いた免疫測定による迅速かつ定量的測定法の検討を計画した。以下交付申請書の研究実施計画に沿って研究実績を報告する。前年度までに「[1]バイオマーカーの選択・[2]SPRによる測定系の確立」として、市販ポータブルSPR測定機の基本性能を比較し、オプトクエスト社製SPR01を選定した。機器性能評価を兼ねて、重症デング出血熱の早期バイオマーカーの候補として、炎症時に誘導されるたんぱく質IP10を選定し、二種類の異なる抗体を用いたサンドウィッチ法による測定系を設計し、リコンビナントヒトIP10を用いて検出感度を測定した。測定に要する時間は検体あたり数分であり、ベッドサイドで重症度診断の”point-of-care”試験に適用可能と考えられた。今年度は「[1]バイオマーカーの選択・[2]SPRによる測定系の確立」の拡充を図った。病原体由来のバイオマーカーとして、デングウイルス非構造タンパクNS1を、また、宿主応答のバイオマーカーとして、CCL3(MIP-1α)の測定系を作製した。さらに「[3]臨床検体の収集」を開始した。国外共同研究者、ホーチミン市パスツール研究所、Vu TQ Huong博士、Nguyen TP Lan博士の協力のもとに現地ベトナム社会主義共和国ホーチミン市の医療機関でパイロット的に小児例の検体を収集し、上述の測定系を適用した。
2: おおむね順調に進展している
「[1]バイオマーカーの選択・[2]SPRによる測定系の確立」は、病原体由来のバイオマーカーとして、デングウイルス非構造タンパクNS1を、また、宿主応答のバイオマーカーとして、IP10およびCCL3(MIP-1α)の測定系を確立した。「[3]臨床検体の収集」をパイロット的に開始した。「[4]測定技術の移転」については、国外共同研究者、ホーチミン市パスツール研究所、Vu TQ Huong博士、Nguyen TP Lan博士の研究室に赴き、研修会を行なった。は、十分に質の高い試料を採取するには準備段階で相当綿密な打ち合わせを要しており、年度内の開始はできなかったが、次年度の早期に現地に赴き進めることとした。「[5] 臨床検体の測定」のための本格的「[3]臨床検体の収集」を実施すべく、対象者の選択基準を設定した。より良質な検体収集のため、申請当時に予定した研究期間を1年延長し次年度(最終年度) に、収集期間を定めて行なうこととした。
感染流行地現地での本格的な検体収集を行なう([3])とともに、当初の計画に沿って現地の共同研究者の研究施設・臨床現場のスタッフを対象とした測定技術移転を継続し(研究実施計画「[4]測定技術の移転」)、実際の収集検体の測定を進め(同「[5] 臨床検体の測定」)、バイオマーカーの診断的有用性を検証する。本研究の成果は、学術的には疾患成立機序理解の一助となるだけでなく、医療への応用面では稀少な医療資源を高リスク患者に重点的に配分する治療プログラムを策定することで熱帯地域における疾病の社会的負荷の軽減に貢献する。
次年度は計画通りに、測定のための消耗品購入、ベトナムへ赴いて共同研究を実施するための旅費、および臨床検体収集・臨床データ収集に要する諸経費を支出する計画である。
すべて 2012
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (2件) (うち招待講演 1件)
Transl Res.
巻: 160 ページ: 443-444
10.1016/j.trsl.2012.06.003.
Scand J Immunol.
巻: 76 ページ: 167-74
10.1111/j.1365-3083.2012.02715.x.