先天性尿素サイクル異常症の一つであるオルニチントランスカルバミール欠損症(OTCD)に対するiPS細胞を利用した安全な遺伝子修復法の確立を目指し、本年度は以下の研究を行った。①OTCD患者のFibroblastに対してcMyc、Oct3/4、Sox2、Klf4の各遺伝子を導入することでiPS細胞を樹立した。しかし樹立したiPS細胞は免疫染色により(Nanog、Oct3/4、SSEA-3、SSEA-4、TRA1-60、TRA1-81) を発現していたものの、NOD-scidマウスでの奇形種形成は認めなかった。リプログラミングの手技によるものか、もしくはfibroblastの培養の過程でその性質に変化(OTC欠損による)が起こった可能性も考えられた。②また、毛髪からのiPS細胞樹立の前段階として、ケラチノサイトの培養系の確立を行った。特別な手技無く採取した毛髪を、トリプシン処理の後に培地に浮遊させることで細胞が遊出し、その後フィーダー細胞であるNIH3T3細胞上に播くことで培養が可能となった。細胞はcytokeratine5/14の発現しており、また継代も可能であった。今後、患者からのiPS細胞樹立の際に一つの材料になりうると考えられた。③相同組換えにはアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを使用した。変異exonとその前後の相同配列をネオマイシン耐性遺伝子とヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(HSVtk)遺伝子とともにAAVベクターに組み込み相同組換えを図ったが、遺伝子修復クローンは得られなかった。AAVは組み込める長さに限界があり、二つの選択遺伝子の導入は難しいと考えられた。今後はより長い配列を組み込むことができるアデノウイルスベクターを利用したターゲッティングベクターの作成を検討中である。
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