Duchenne型筋ジストロフィー(DMD)は骨格筋細胞膜にあるジストロフィンの欠損症である。この事実が発見されて以来、過去数十年に亘り膜の異常がDMDの主病態と考えられてきた。申請者は数百名のDMD患者の分子病態解析を進め、ジストロフィン欠損による膜の異常のみでDMDの病態が説明できない事実に遭遇してきた。そして、DMDの病態に炎症が関与するとの着想のもと、炎症の鍵分子であるプロスタグランディン(PG)についてDMD患者で予備的に解析した。その結果、PGD_2(PGD_2)の合成亢進がDMDで生じていることを示唆する衝撃的な結果を得つつある。本研究は、多数例のDMD患者を対象として、尿中へのPGD2の排泄解析と骨格筋におけるPGD_2合成酵素遺伝子の発現解析を実施した。尿中のPGD_2の代謝産物であるtetranorPGDMをDMD患者の早朝第1尿で測定したところ、正常より高いことが判明した。また、その尿中へ排出量の年齢変化をみると8歳からさらに急上昇することかが明らかになった。これはこの時期のDMD患者の歩行喪失時期と一致しており、病態的意義は深いものと考えられた。そして、この結果は、PGD_2合成酵素阻害剤によるDMDの治療の可能性を示唆する結果であった。
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