ヒト内因性レトロウイルス(HERV)がどのような疾患病態に影響を及ぼすのかを、川崎病(炎症性疾患)をモデルとして検討した。 昨年度70人の川崎病患児と10人の健康児、7人のアレルギー性紫斑病患児、2人の新生児毒素性ショック症候群様発疹症(NTED)患児を対象に行ったVβ2およびVβ7の発現率の結果の解析をさらに詳細に行った。Vβ2(細菌由来スーパー抗原が誘導)陽性率は、川崎病患児で3.7±1.5%と、健康児の2.7±0.8%やアレルギー性紫斑病患児の2.4±0.6%と比べると有意に高かった(p<0.04)が、NTED患児と比べるとずっと低かった。臨床病型別に比べてみると、BCG痕発赤が認められた群でVβ2陽性率が4.0±1.6%と認められなかった群の3.1±0.9%と比べ有意に高かった。また免疫グロブリン大量静注療法を繰り返す必要があった治療抵抗群ではVβ2陽性率が2.9±1.2%と治療反応群の3.8±1.5%より有意に低かった。 一方、Vβ7(HERV関連スーパー抗原が誘導)の陽性率は全ての疾患群でと大差なかった。ただ、Vβ7発現が高い患者9人と低い患者51名とで、末梢血単核細胞中のEpstein-Barrウイルス(HERV関連スーパー抗原の発現を誘導すると報告されている)DNAの検出・定量をreal-time PCRで行ったところ、前者では4人(44%)でウイルス血症(21-540 copies/1.0E+06 cells)が認められたのに対し、後者では3人(5.9%)に認めた(16-35 copies/1.0E+06 cells)のみであった。これはVβ7の発現にEBウイルスが関与していることを示すデータであり、川崎病の一部においてEBウイルス感染がHERVの発現を誘導し、この内因性スーパー抗原がVβ7を誘導し、過剰な炎症反応を惹起している可能性を示唆する。
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