研究課題/領域番号 |
23659529
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研究機関 | 福岡大学 |
研究代表者 |
廣瀬 伸一 福岡大学, 医学部, 教授 (60248515)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | モデル動物 / フロセミド / てんかん |
研究概要 |
アセチルコリン受容体のα4サブユニットの遺伝子CHRNA4の点変異はヒトに常染色体優性夜間前頭葉てんかんを起す。ヒトで同定された変異の一つS284Lを導入した組換えラット"S284L-TG"は、ほぼすべての個体が生後8週目ぐらいから、ヒト常染色体優性夜間前頭葉てんかんと同じてんかん発作生を来たす。このS284L-TGにループ利尿剤のスロセミドを使用することにより、てんかんの発症を抑止することに成功した。詳細はS284L-TGを生後4週から8週、と8週から10週にかけてフロセミド(25mg/kg/day)を経口で投与する2群に分けた。コントロール群としてプロセミドの代わりに水を摂取する群を用意した。その後、発作症状をビデオ脳波同時記録装置で8週、10週、12週に最低5日間に亘り観察した。その結果4週から8週にフロセミドを経口投与された群では、コントロール群に比べ有意にてんかん発作が押さえられた。また発作を起こす頭数も減少した。これに対し、8週から10週にプロセミドを投与した群では、コントロールに比べてんかん発作の現象傾向は見られたが、統計上有意ではなかった。さらにこの群では投与中止後の生後12週ではコントロール群とけいれん発作の数や出現頻度に変化はなかった。以上より、S284L-TGにフロセミドを発作の成立前に投与することにより、てんかん発作を抑止できることが分かった。このフロセミドの効果の機序を明らかにするために、脳の冠状スライスを用いて、新皮質神経細胞のGABA受容体の reversal potential (EGABA)を測定した。その結果、フロセミドはEGABAを過分極から脱分極へと変換することが分かった。また、同部位の単一細胞を用いたRTPCRにより、K+-Cl--cotransporter 2 (KCC2)の発現が抑制されていることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ヒトてんかんで発見された遺伝子に基づく遺伝子改変てんかんモデル動物に対して、発作の成立前のフロセミド投与より、てんかん発作を抑止・予防できることを初めて示すことが出来た。その機序がGABAのGABA受容体の reversal potentialの脱分極促進によるものであることを明らかにした。フロセミドの効果はNKCC1(Na+, K+-2Cl- cotransporter)阻害であるが、それにはまた、K+-Cl--cotransporter 2 (KCC2)の発現の抑制が伴うことを明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
さらに同様な実験をヒトてんかんで発見された遺伝子異常を持つ遺伝子改変動物を用いて行う。具体的には、我々が開発した、可変型ノックイン作出法(キックイン法)を用いて、SCN1A遺伝子に複数の遺伝子異常を持つノックイン動物を作出する。これを用いてビデオ同時記録装置用いた、個体レベルでの効果の判定の継続的に実施する。また、今回明らかになったNKCC1 とKCC2 の発現量でのフロセミドの影響の判定を継続的に実施する。ループ利尿剤も、フロセミドに留まらず、種々なループ利尿剤を使用し、最適薬剤、投与量を確定する。
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次年度の研究費の使用計画 |
主に可変型ノックイン作出法(キックイン法)を用いて、SCN1A遺伝子に複数の遺伝子異常を持つノックイン動物を作出に注力する。これには、高額化が予想されるES細胞関連の培養費、分子生物学的実験経費や、動物飼育費が含まれる。一方、ビデオ同時記録装置は、すでに福岡大学で増設予定であり、また記録そのものは少額の消耗品によるものであるため、大きく予算を割る必要はない。
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