研究課題
Pelizaeus-Merzbacher病(PMD)は、中枢神経系の髄鞘形成不全を特徴とする遺伝性難治性神経疾患である。PLP1遺伝子のゲノム重複がPMDの最も頻度の高い遺伝子変異であるが、なぜPLP1遺伝子にゲノム重複変異が高頻度におこるのか、その機序については不明である。我々は、PLP1ゲノム領域に構造変化がおこりやすい構造的な脆弱性があるからではないかと仮説した。そこで本研究では、多数のPLP1重複のDNA検体を用いて、ゲノム異常の構造を高解像度で解析することにより、PLP1重複がおこる共通の機序を明らかにすることにより、この仮説を検証する。本研究から得られる知見は、PMDのみならず自閉症や精神遅滞などゲノム領域の構造変化が原因で起こる多くの小児神経疾患に共通するゲノム変異の機序の解明に寄与すると思われる。本年度は、PLP1遺伝子を中心に5Mbのゲノム領域をカバーする高密度オリゴCGHアレイを設計、作製した。これはアジレント社の専用ソフトeArrayを用いた。PLP1重複によるPMD患者の検体は、研究協力者のフランスINSERUMのBoespflug-Tanguy教授より70症例分のDNAの譲渡を受けた。このアレイを用いて、本年度は35症例分について、正常男性DNAを対照にもちいた解析をおこなった。その結果、すべての症例において、PLP1遺伝子領域の重複を検出することができた。いくつかの症例では、重複領域内にコピー数の変化を認め、当初より目的としていた高感度のコピー数検出が可能であることを確認した。
2: おおむね順調に進展している
当初予定していたPLP1重複症例のDNA検体の収集、カスタムメイド高密度オリゴアレイの設計と作製、これを用いた症例の解析、そして各症例に関するゲノムコピー数解析をほぼ予定通り実施することができた。シグナルの検出感度や重複領域の確定に関する正確性も良好なデータを獲得することができた。
今後は、残りの35症例について、同様に解析を進めていく。さらに、各症例から得られたデータを統合して比較解析を行い、ゲノム組み換えがおこる頻度の高い領域を同定し、この領域のゲノム構造の特性を明らかにしていきたい。こういった解析は、多数例の解析を行うことにより始めて可能になるが、本研究は非常に希少な疾患について多数例での解析を行うことができる点で、特徴的である。
今年度はほぼ予定通りに予算を執行した。消耗品の購入が予定より少なかったのは、試薬などを他研究課題と共用することにより、節約することができたためである。次年度は、主にアレイCGH解析に関する消耗品、定量PCRなど、分子生物学的解析に関する試薬、細胞培養などにかかる経費が増加する見込みである。また、成果発表を国内外の学会で行うための旅費の支出を予定する。一方、人件費、謝金は、当初の額より少なくなる予定である。
すべて 2012 2011 その他
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件) 学会発表 (7件)
J Magn Reson Imaging
巻: 35 ページ: 418–425
doi:10.1002/jmri.22817
Mol Genet Metab
巻: 106 ページ: 108-114
doi:10.1016/j.ymgme.2012.02.016
Am J Hum Genet
巻: 89(5) ページ: 644-51
doi:10.1016/j.ajhg.2011.10.003
PLoS Genet.
巻: 7 ページ: -
doi:10.1371/journal.pgen.1002171
脳と発達
巻: 43 ページ: 435-442