Pelizaeus-Merzbacher病(PMD)は、中枢神経系の髄鞘形成不全を特徴とする遺伝性難治性神経疾患である。PLP1遺伝子のゲノム重複がPMDの最も頻度の高い遺伝子変異であるが、なぜPLP1遺伝子にゲノム重複変異が高頻度におこるのか、その機序については不明である。我々は、PLP1ゲノム領域に構造変化がおこりやすい構造的な脆弱性があるからではないかと仮説した。そこで本研究では、多数のPLP1重複のDNA検体を用いて、ゲノム異常の構造を高解像度で解析することにより、PLP1重複がおこる共通の機序を明らかにすることにより、この仮説を検証する。本研究から得られる知見は、PMDのみならず自閉症や精神遅滞などゲノム領域の構造変化が原因で起こる多くの小児神経疾患に共通するゲノム変異の機序の解明に寄与すると思われる。H24年度は、昨年度に引き続き、カスタム高密度オリゴCGHアレイを用いて、PLP1遺伝子重複によるPMD症例約70例の微小ゲノム構造変化領域の高解像度ゲノム解析を行った。70例すべてにPLP1領域の重複を確認した。重複するゲノム領域の大きさは、それぞれ症例ごとに異なり、組み換え断端の位置も症例ごとにことなり、共通の断端は近位端、遠位端ともに存在しなかった。しかし、遠位端は数十Kbに渡る領域に集積する傾向があった。複数の症例で重複が一部、中断している、あるいは3重複になっている症例が存在し、これらの症例には複雑な組換え機序が関与することが示唆された。今後、これらの症例の組換え断端を塩基配列レベルで解明する予定である。
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