研究課題/領域番号 |
23659532
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研究機関 | 愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所 |
研究代表者 |
永田 浩一 愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所, 神経制御学部, 部長 (50252143)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 大脳皮質 / 発達障害 / 神経細胞移動 / マリネスコ・シェーグレン症候群 / 知的障害 |
研究概要 |
小児神経領域において、てんかん・けいれんと精神遅滞は大きな割合を占める。これらの症状は互いに関連しており、原因の共通性が示唆される。その共通する病態は脳神経回路の機能障害である。このような脳神経回路の機能障害の原因のひとつとして、大脳皮質形成過程における神経細胞の移動障害が明らかとなっている。 近年、私達が研究を進めてきたコシャペロン(SIL1)が関与するヒト遺伝子変異疾患"マリネスコ・シェーグレン症候群"においても てんかんや精神遅滞が存在することから、今回、子宮内胎仔脳遺伝子導入による遺伝子発現のノックダウンとそのレスキュー実験を行い、シャペロンならびにコシャペロンが大脳皮質形成過程の細胞移動において重要な役割を果たしている可能性を見出した。すなわち、SIL1の発現抑制により大脳皮質神経細胞の移動障害がおこり、大脳皮質構築の異常が示された。この異常は正常型SIL1の発現により改善されるが、マリネスコ・シェーグレン症候群を引き起こすSIL1の変異体を発現させても改善しなかった。これまでシャペロンあるいはコシャペロンが、大脳皮質形成過程でどのように関与するかという報告はなく、脳神経発達障害における新たな視点を提起できると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
知的障害は全人口の2~3%に認められ、重度知的障害の50~60%は遺伝的要因の関与が想定される。当施設の中央病院でも、知的障害児の約25%は病因が特定されず診断不能となっており、病因遺伝子の同定とその分子病態メカニズムの解明が喫緊の課題である。そのような状況下で私共は、子宮内エレクトロポレーション法(子宮内胎仔脳への遺伝子導入法)と共焦点レーザー顕微鏡ライブイメージングを組み合わせて、知的障害原因遺伝子の探索と機能解析のための新規実験システムを構築した。本研究では、1)未知の知的障害病因遺伝子候補群の選別・確定と細胞機能の特定、2)既知の知的障害病因遺伝子の機能異常の分子メカニズムの解明、を目的として遺伝子スクリーニングを行っている。その過程で、マリネスコ・シェーグレン症候群の原因遺伝子SIL1の新規変異を発見し、この変異や従来報告されて来たSIL1変異が大脳皮質形成に必須の役割を果たすことを見出すことができたので、おおむね順調に研究計画は進展していると考えている。この成果は、現在国際学術誌へ投稿するために論文執筆中である。
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今後の研究の推進方策 |
私共は、1)子宮内エレクトロポレーション法を用いてマウス胎仔脳に遺伝子やsiRNAを導入し、その後、経時的に大脳皮質スライスを作製し、2)そのスライスを共焦点レーザー顕微鏡下で培養しながら長時間リアルタイム観察することで、大脳皮質形成過程を詳細に解析する手法(共焦点レーザー顕微鏡ライブイメージング法)を構築している。研究初年度はこの技術を十分に駆使出来なかった。今後は、この手法を活用して、SIL1およびこれまでに同定された病因遺伝子の機能を網羅的に解析し、大脳皮質形成(すなわち神経細胞の移動と形態)の異常およびシナプス・スパイン形成不全への関与の実態を解明したいと考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度は、1)共焦点レーザー顕微鏡ライブイメージングを用いた治療ターゲットの探索、および、2)スパイン・シナプス形成を原因とする知的障害の病因候補遺伝子の機能解析、を中心に研究を遂行する。次年度の研究費は、これらの実験に必要な消耗品、実験動物、細胞培養関連試薬の購入に充てる。また、研究成果発表のための国内学会参加旅費としても使用する。
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