研究概要 |
難聴を伴う掌蹠角化症の母子例を経験し,同じ臨床症状を呈する個発例も数例経験した。難聴を伴う掌蹠角化症では,母系遺伝のものの一部ではミトコンドリアDNAの異常が,それ以外のものではGap junctionに関わるコネキシン(Cx)の異常が報告されているが,我々が経験した症例では,ミトコンドリアDNAやCxの異常が報告されている症例と臨床症状が合致するにも関わらず,ミトコンドリアDNAの既報告領域およびCx26(GJB2),Cx31(GJB3),Cx30.3(GJB4),Cx30(GJB6),Cx43(GJA1)の全配列を検索したが,異常は検出できなかった。そこで,健常者および患者検体よりインフォームドコンセントを行い同意を得た後,表皮細胞の三次元培養を行った。この際,単層培養系での表皮細胞の増殖能,培養液中のCa2+濃度を変化させた際の分化度に関しては,患者由来の表皮細胞とコントロールとしての健常者から得た表皮細胞では差違は認められなかった。さらに,三次元培養した際の形態学的な差異を検討しても,患者由来の表皮細胞に障害は生じていなかった。また,PCRにてCx遺伝子の発現を網羅的に解析したが,発現に健常者由来の表皮細胞と比して差異を認めることはできなかった。しかしながら,これらの解析を通じて角化症研究を専門としている先生方にCxの遺伝子異常を当教室で行っていることが認知され,長崎大学の皮膚科から遺伝子検査を依頼されるなど,一定の成果を上げられたと思っている。今後も,今回樹立した培養細胞を用いて発現遺伝子の網羅解析などの解析を継続していく予定である。
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