本研究の目的は、遅発育性抗酸菌遺伝子改変用ベクターを開発した後、これを用いて、GFP発現らい菌株、及び、らい菌の鼻粘膜上皮細胞や血管内皮細胞への侵入因子(mce1A遺伝子)をノックアウト(KO)したGFP発現菌株をマウス内で作製し、GFPを指標に選別するシステムを構築することにある。さらに、この遅発育性抗酸菌遺伝子改変システムより得られたらい菌mce1A遺伝子KO株(gfp+/mce1A-株)と非KO株(gfp+/mce1A+株)のヒト鼻粘膜上皮細胞などへの侵入・感染効率を、GFP発現による蛍光強度によって比較検討することで、最終的には、ハンセン病の感染様式におけるらい菌mce1A遺伝子の役割を明らかにすることが目的である。 GFPらい菌株作製システムを構築するため、遅発育性抗酸菌遺伝子改変ベクターのらい菌への導入効率について主に解析してきた。具体的には、作製ベクターを電気穿孔法によりらい菌へ導入し、マウスへ接種・培養した後、GFP発現を指標にしたFACS解析法による遺伝子改変株の選別について検討した。結果、現時点ではマウス接種後に改変ベクター導入らい菌の回収に至っておらず、作製ベクターをらい菌に高効率で導入するシステムを構築出来ていない。らい菌内制限酵素により改変ベクターが切断されている可能性もあり、今後の検討課題として残った。 一方、得られたGFPらい菌株(gfp+/mce1A+株)の鼻粘膜上皮細胞などへの侵入・感染効率を検討するために必須である、Mce1A蛋白に対する抗体を合成ペプチドを用いて作製した。既に数種類の抗体が得られ、それらを用いたMce1A蛋白外膜表示大腸菌の鼻粘膜上皮細胞などに対する侵入抑制効果を検討した。その結果、特定の合成ペプチド領域に対する抗体により、同外膜表示大腸菌の侵入抑制が観察された。らい菌のヒト細胞への侵入に関わるMce1A蛋白の侵入活性部位の同定に向けて、今後は、らい菌の細胞への侵入抑制について検討する予定である。
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