研究概要 |
平成23年度は、当初計画していた、1)オリジナルの心理検査の作成、2)自閉症スペクトラム障害(ASD)当事者40名と定型発達者(TD)40名からの新旧の心理検査でのデータ収集、3)同一のASD当事者40名とTD対照者20名からのマルチモダリティMRIデータ収集、4)オキシトシン噴霧剤を用いてオリジナルの心理検査をアウトカム指標として用いた臨床試験の計画、を行なった。1)俳優の表情等を記録した写真と動画、イラストレーターに描画してもらった4コマ漫画などを用いて、他者判断、他者の感情や意図の理解、表情認知、不公平性の回避、などを検討する心理検査を作成した。2)これらのオリジナルの心理課題とSocial Responsiveness Scale, Autism Diagnostic Interview Revised, Empathy Quotient, Systemizing Quotient, Autism Spectrum Quotientなどの従来の心理検査や心理評価の両方を知的障害がなく服薬を殆ど行なっていない成人男性のASD当事者40名と背景情報を一致させたTD対照者20名で施行した。3)これらの心理検査を実施した対象者にStructural-MRI, Diffusion tensor imaging, MR-spectroscopy, fMRIを行い、作成した検査バッテリーによる脳賦活および評点結果と社会脳領域の機能・形態・代謝のデータを収集した。4)ASD当事者20名を対象に、オキシトシン噴霧剤投与による社会認知促進効果を検討する臨床試験の際に上記で作成した心理検査をアウトカム指標として用い、経時変化検出を検討する臨床試験を計画して東大病院IRBの承認を得て臨床試験登録した。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度は平成23年度に収集したデータの解析と臨床試験の実行をする。 収集した上述の心理検査データ・マルチモダリティーMRI指標・臨床試験データをSPSS, 3D-slicer, LCModel, Matlab上でのSPM8などの統計解析・演算・画像解析ソフトを使用して、PCワークステーション上で以下の様にデータ処理・解析を行う。 行動データについては、SPSSを用いて、従来の指標との関連を検討する。SRSやADIRなどの詳細な行動観察に基づく客観的な症状評価指標と本計画で作成する心理検査バッテリーが相関することが示されれば、本検査バッテリーが社会性の障害の重症度を反映する事、そして客観的な行動上の特徴を反映することを示す事が出来る。マルチモダリティーMRI指標は、社会性やその障害との関連がこれまでに繰り返し報告されている内側前頭前野、扁桃体、島皮質前部、後部下前頭回、上側頭溝、頭頂側頭結合部、楔前部、前頭眼窩野などのいわゆる社会脳領域と言われる脳部位を中心に、形態(体積・拡散異方性)・機能(心理検査による脳賦活)・代謝(MRSで測定された代謝物濃度)との関連を検討する。臨床試験データについては、SRS, Autism Diagnostic Interview Revisedなどの従来の行動評価指標で検出される、プラセボ投与期と比較したオキシトシン投与期の社会性の障害の重症度の経時変化と、本検査バッテリーで検出した経時変化とを比較する。両指標の相関や感度の比較を行い、経時変化検出の感受性・症状変化との関連性および繰り返し効果の出現程度について検討する。
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