研究概要 |
本年度の研究計画に沿って、自殺予測のためのバイオマーカーの探索を目的とした、下記の研究を行った。 メチル化解析に関する基礎的研究:昨年度に引き続き、末梢血由来のDNAを用いてうつ病患者50例と健康対照者50例を対象に、セロトニン・トランスポーター(SLC6A4)、セロトニン受容体(5-HT)1A, 2C、 BDNF、TrkB (NTRK2)の各遺伝子の、エクソン1をカバーするCpG island内及びshoreのCpGのメチル化解析をMassARRAYで行った。各遺伝子のCpGのメチル化率とHamilton Rating Scale for Depression (HAM-D)の自殺念慮評価点との間に、有意な相関は得られなかった。うつ病の重症度を評価するHAM-D総得点と各遺伝子のCpGメチル化率との間には、SLC6A4遺伝子のCpG3, 76で有意な相関がみられた。うつ病患者群と健康対照者群の間でメチル化率に有意な差のみられるCpGを探索した結果、BDNF遺伝子の29か所とSLC6A4遺伝子の1か所のCpGで有意差がみられたが、他の遺伝子では有意差のあるCpGはみられなかった。 メチル化およびmRNA発現に関する臨床的研究:うつ病患者を対象にHAM-Dで自殺念慮を評価した上で、昨年度に引き続き、末梢血由来のtotal RNAを対象にreal-time PCR法を用いてSLC6A4, BDNF遺伝子のmRNA発現量の解析を行った。SLC6A4, BDNF遺伝子のmRNA発現量について、特に健康対照者との間に有意な差はなく、自殺念慮の程度との間に有意な関連はみられなかった。 今回のメチル化解析で対象とした遺伝子は、抗うつ薬の標的とされる遺伝子群であるが、今回の研究結果からみると自殺念慮という症状の形成には、これらの遺伝子の関与は乏しいと考えられた。
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