研究課題/領域番号 |
23659579
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
荒野 泰 千葉大学, 薬学研究科(研究院), 教授 (90151167)
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研究分担者 |
上原 知也 千葉大学, 薬学研究科(研究院), 講師 (10323403)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 分子イメージング / SPECT / アイソトープ治療 |
研究概要 |
当初、BHam誘導体にRGDペプチドを導入した化合物を用いて、新たな2価99mTc標識薬剤を作製し、その標識合成、標的分子との結合親和性、体内動態を、現在進めているPenicillamine(Pen)を母体とする2価99mTc標識薬剤と比較する計画であった。しかし、Penを母体とする99mTc標識体が、標的分子のみならず肝臓への高い集積を示すことから、Penに比べて脂溶性の高いBHamの利用は適切ではない。また、BHamの大きな特長は、99mTcとのキレート形成原子にチオール基を有さないため、分子内にジスルフィド結合を有する生体分子への応用が可能であることである。その候補としてscFvやFab等の抗体フラグメントやアフィボディが挙げられることから、本研究では分子サイズの最も大きい抗体Fab’フラグメントを用いた検討を行った。BHamの窒素のモノアルキル化から、エチレン構造あるいは3ユニットのエチレングリコール構造を介してマレイミド基を有する化合物を合成した。抗体にハーセプチンを選択し、そのFab’フラグメントを作製した。現在、Fab’とBHamとを結合したconjugateを作製し、その99mTcとの錯形成反応条件の探索を進めている。必要に応じて、BHamとマレイミド基とのスペーサ構造やFab’に導入するBHamの分子数についての検討を加え、99mTcがBHamとの錯形成を介して2分子のFab’を架橋した99mTc標識2価抗体の作製を行う。本化合物を未反応のFab’から精製すれば、1分子のF(ab’)2に1原子の99mTcが部位特異的に結合した従来にない標識抗体が得られる。本標識体を高い収率で与える反応条件を選出し、腫瘍移植モデルマウスにおける体内動態を従来の標識抗体と比較する。以上より、腫瘍への集積を向上する標識抗体の薬剤設計についての基礎的指針を確立する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Benzaldehyde oximeとNCSとの反応によるN-hydroxybenzimidoyl chlorideの合成、本化合物と片側のアミノ基をBocで保護したジアミン化合物との反応、生成した化合物の脱BocとN-methoxycarbonyl maleimideとの反応により、BHamの1級アミノ基から任意のスペーサを介してマレイミド基を導入した化合物の合成方法を確立した。これにより、BHam構造と抗体との結合距離を任意に制御することが可能となり、99mTcとの錯形成反応の及ぼすFab'分子の立体障害の影響等についての検討が可能となった。また、Fab'抗体フラグメントン作製においても、生成するチオール基の数を再現性良く制御することが可能となり、部位特異的(おそらくヒンジ部位)にスペーサを介してBHamを導入することが可能と考えられる。本成果により、今年度に予定している99mTc錯体で架橋したF(ab')2の作製に対する準備が整い、今後、99mTc標識2価抗体を与える至適条件の探索、生成した99mTc標識F(ab')2の体内動態、とりわけ腫瘍集積性について検討する。なお、本99mTc標識抗体は、1原子の99mTcが1分子のF(ab')2と1:1のモル比で結合した、これまでにない標識抗体であり、従来の標識抗体とのその体内動態の比較から、腫瘍への集積に及ぼす抗体分子数(抗体量)の影響についての新たな知見を与えると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
BHamを導入したFab’と99mTcとの錯形成反応により、99mTc-BHam錯体を介して2分子のFab’が結合した、これまでにない99mTc標識2価抗体の作製を行う。95%以上の放射化学的収率で99mTc標識2価抗体を与える標識条件として、抗体濃度(BHam濃度)、BHam/抗体結合比、スペーサ構造、反応pHなどを検討し、その至適条件を探索する。95%以上の放射化学的収率で目的とする99mTc標識2価抗体が得られた場合、直接実験動物に投与した時の99mTc標識2価抗体の体内動態、とりわけ、腫瘍集積性、血液クリアランス、肝臓集積性を、RIがランダムに結合した抗体と共に、RIの結合していない未修飾抗体を大量に含む従来の方法で作製した1価および2価抗体と比較する。サイズ排除HPLCを用いて99mTc標識2価抗体から原料であるBHam-Fab’を除去した場合の体内動態についても検討を加え、その比較から、体内動態(特に腫瘍集積)に及ぼす過剰の1価抗体の影響を明らかにする。過剰の1価抗体を除去した99mTc標識2価抗体投与後に、外部から腫瘍部位に超音波刺激あるいは温熱処理を行った場合の腫瘍への集積増加効果についても併せて検討を行う。なお、99mTc標識反応において95%以上の放射化学的収率が達成されなかった場合、サイズ排除HPLCによりBHam-Fab’を除去して99mTc標識2価抗体を単離する。本標識抗体には未修飾の抗体が含まれておらず、これを用いて上記の検討を行う。現在、臨床使用されている標識抗体では大量の未修飾抗体を含むが、これが必要とされる原因を明らかにすると共に、RI標識抗体の腫瘍集積性を向上する新たな標識抗体の設計についての基礎的知見が得られると考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究費は、本研究においてモデル抗体として用いるハーセプチンの購入、細胞培養試薬、合成のための試薬と溶媒、99Mo-99mTcジェネレター、サイズ排除HPLC用のカラム、実験動物などすべて消耗品の購入費用に充てる。なお、超音波による外部刺激の実験は、機器会社から超音波発生装置を借用することで合意している。
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