悪性黒色腫の腫瘍細胞膜表面はメラノコルチン-1型受容体を過剰発現し、この受容体と色素細胞刺激ホルモンの1つであるα-MSHは結合親和性を持つ。そこで、DOTA基を持つα-MSHペプチド類似体DOTA-Re(Arg11)CCMSHに放射性同位体をキレート結合させることで、悪性黒色腫の腫瘍細胞に集中的に放射線を照射することを試みた。本研究ではα線放出核種として234Th、225Acの標識、また診断用核種として111Inの標識ならびに担癌実験動物を用いたイメージングを行った。 その結果、標識では、234ThはpH4.5で最も多くペプチドと標識することが判明した。またpH3では234Thはペプチドと標識されずTh4+イオンの状態で溶離されてしまうことが判明した。pH5以上となるとThは特に水酸化物を形成しやすい状態となり、Th(OH)4を形成した。一方225Acでは234Thと同じ条件でも標識されにくく、またペプチドが反応溶液中で分解されることが見いだされた。これは225Acとその壊変生成物である娘核種から放出される放射線の影響と考えているが、目下検討中である。111Inを用いた担癌実験動物ではC57BL/6 系マウスの右足に移植したB16/F1に111In標識ペプチドが集積することをγカメラを用いたイメージングにより確認した。ペプチド薬剤DOTA-Re(Arg11)-CCMSHはDOTA 部位において、様々な金属イオンと結合する可能性を持つため、今後225Acや227Th等のアルファ放射体を効率よく標識することができれば、225Ac等から放出されるα線を腫瘍部位にのみ照射することが可能と考えられる。 本研究は当初予定していたα核種による悪性黒色腫の治療の評価には到らなかったが、標識技術の検討を行うことで、その可能性を探ることが可能であることを示した。
|